Wednesday

「大型原子炉の事故の理論的可能性及び公衆損害額に関する試算」 附録 (F)

附録 (F)

物的、人的損害額の試算基礎

I. はしがき

WASH においては、原子炉事故によつておこる損害額の計算に当り、物的損害については、一応の金銭的評価をおこなつているが、人的損害については、単に被曝線量とそれによる影響度を示した人数が算出されているのみで、その金銭的評価はおこなわれていない。

人的損害の金銭的評価が困難である、というよりも殆んど適正な評価が不可能であるということを知りつつも、われわれが敢えてこれをおこなつたのは、本調査の目的から原子炉事故にともなう損害の全評価額を算出することであり、その数値を多少なりとも適正な数値に近づけさせるためである。

そこでわれわれがこれをおこなうことの意義を見出したのは、次のような簡明な論理である。すなわち、破滅的原子炉事故は人的および物的という 2 つの損害を惹起するということ、にも拘らず (それが、いかに困難であるからといつて)、人的損害の評価を全くおこなわない、すなわち零とするならば、結果は全損害額 = 物的損害額となつてしまうおそれなしとしない。したがつて特に過大評価にならない限り、人的評価を零でないとすることは必要であるということに基づいている。もつとも物的損害額のみを算出してコメントをつける方法もあるが往往にしてこのような 1 つの数値が結果的に出された場合、コメントがはづされて独り歩きするものであり、そのようなことに基づく誤謬を避けるための配慮を怠つてはなるまい。

物的損害の評価方法については、WASH に一応例示があるが個々の数直について、その根拠または算出ルートが殆んど示されておらず、しかも明らかに推計方法の誤りと思われるものもあり、わが国の場合に引き移して考えるに際し、相当の補正をおこなわざるを得なかつた。また、人的損害の試算は極めて困難なものがあつたが、前述の考え方から、何とか数値を示すという意味で、最後まで一応評価をおこなうこととした。

その試算方法は後に示す如く、物的損害よりはるかに大胆な、大まかな推定や仮定がなされているが、結果からいえば、過大評価にはなつておらず、しかも零でないところに結論が出たという意味で満足するほかはないであろう。

以下物的損害および人的損害の試算基礎についてのぺることとするが、ここに論じている損害の範囲は、実際に原子炉事故による損害が溌生した場合のものよりも狭くなつていることはとくに注意を要する。何故なら明らかに損害賠償の対象になるとは思われても―律にこれを算出する手がかりが全くないものは計算されていないからである。実際の損害賠償の範囲はおそらく相当因果関係の範囲であろうからわれわれが試算した額より大きくはなつても小さくはならないと思われる。





II 物的損害額の試算基礎


大型原子炉事故から生じうる敷地外の物的損害額の試算に当つて WASH では次のような見積り方法を採つている。(1)原子炉事故によつて影響をうける人数を算定する。(2)これらの人々をその影響の度合によつて 4 つの級別に分類する。(3) 1人当りの平均額を確定する。本調査に当つての損失試算においても方法自体はほゞこの WASH と同様な方法をとつた。

すなわち、沈着放射能によつて影響をうける度合に従つて、附録 (D) に示したように以下の 4 級別に分け、その各人について 1 人当りの平均損害額を試算することとした。


放射能量影響をうける度合
揮発性放出全放出
A 級0.04 C/m20.07 C/m212 時間以内に全員立退き
B 級0.01 〃0.02 〃1 ヶ月以内に全員立退き
C 級6 × 10-44 × 10-5都会居住者は 6 ヶ月間だけ退避

農村居住者は全員立退き
D 級6 × 10-54 × 10-61 ヵ年間農業制限

以下 1 人当り平均損害額の計算にあたり問題となるべき点を述べることとするが、その結果として示された損害額は、もし万一大事故が生じたときに支払われるであろう賠償額よりもかなり過少評価となつているおそれがあることを指摘しておく要がある。

これらは、もちろん物的損失に対する賠償の対象をどの範囲に限定するか、拡大するかの考え方の相異による面もあるが、またこの試算に採用しうる既存資料の限界から、当然計上すぺき資産が除外されたという事情に基因した面もあつた。後者は今後さらに良い資料をうることによつてある程度解決しうる問題であり、本報告はその一例を示したものとして理解するべきである。

以上の諸点は各項おいて詳しく述べてあるが、仮りに事故に伴つて喪失するであろう資産の全てを誤りなく計算し、全額を補償したとしても、わが国の場合果して立退き先があるか、また立退き後それ以前と同様な経済活動を営みうるかは大きな問題として残されよう。

また本調査での試算は WASH と同様すべて全国の平均値である。附録 (B) において想定された原子炉設地点が海岸寄りの比較的人口密集地にある場合、全国を平均化することには若干問題がある。こうした配慮は本試算では全く行わなかつたが、実際の計算に当つてはこの面への調整は当然行わるべぎものと考えられる。

1. 物的損害額試算の前提となる問題点


(1)統計資料の年次


本試算について数多くの統計資料を取捨選択することとなるが、 これらの統計資料の全部について統一した年次はとり難い。もし年次の統一化を図れば、計数はかなり過去のものとなり現状と大幅なギヤツプを生じかねない。

WASH の場合についてみると、試算の全資料を「米合衆国統計大要 1955 年版」に求めている関係から、その内容は、1949 年現在の数値をそのまま引用することとなつたと考えてよく、この結果示された損害額は現状とかなりかけ離れたものとなつている。例えば、同統計大要によつて時間的ギヤツプをみると、再現可能有体財産は 1949 年 7,207 億ドルに対し 1952 年では 9,684 億ドルであり、3ヵ年で 34% の増加を示しており、年間増加率を推算してもこれから現状を推測することは容易でない。

このため本試算ではできる限り最近の数値を求めることとした。この結果各種統計について年次は不統一となることを免れなかつた。とくに有形資産 (家計資産を除く) については昭和 30 年末現在の資料を採用し、その一部を 33 年現在の資料で置き替えるという大胆な試みも行つた。これらの試みは経済成長率が高いというわが国の特殊事情を考慮したためである。がやはり全体的には昭和 30~33 年現在の数値となり、幾分現実の値に近づくことができたものの、やはりかなりの過少評価とならざるをえなかつた。

(2)損害計算の対象範囲


WASHにおいては物的損害計算を 1 級および 2 級の場合、再現可能有形資産 (Repoducible Tangible Assets) と土地について行つたとしている。しかし、これを原資料についてみると、前者についてはその全部を計上しているが、後者については私有地のうち農地 (Farm) と森林 (Forests) のみを計上しているにすぎず、土地価額のほぼ、3 分の 2 を占める「その他の私有地」( Private ) のうち Other と「公有地」( Public )) は計算の対象から除外している。また無形資産に対する評価は全然顧慮していない。

本試算においては損失の予想される全資産の総体を計算するように努力した。WASH について問題となる土地についても耕地、山林のみでなく宅地、原野などについて適当な評価を行つた。強いて本試算から脱漏した有形資産を示せば地下資源、立木などの天然資源、自然物であろう。

事故に伴つて立退きを強制された場合には、その地域に存在する資産の全体を損害計算の対象とするべきであろう。したがつて無形資産についても、有形資産と同様な評価を行うへきと考える。とくにわが国の場合、被害範囲の一部が海上に及ぶことは当然予想されるところであり、もし漁業権などを考慮しなければ海上における損失は皆無となり、実情とかけ離れたものになる可能性がある。しかし無形資産については、有形資産と異り個々のケースで大きな相異があり平均化が困難であるばかりでなく、その統計資料の整備も不充分であるので本資産ではこれについての評価は行わなかつた。原子炉設置点を中心として一つのモデル地域を設定し、この地域について無形資産の実地調査を行えばある程度まで資料がえられるかも知れない。

このほか物的損失に伴う補償を考慮する場合、立退き後における生活権も問題として考えられる。WASH では第 3 級の場合について、移転のための往復日数 4 日間の収入損失を補償の対象としている他は、第 1 級、第 2 級の場合とも損害発生時点はおける資産のみを損失としている。住居、家財のみでなく収入先の会社、工場が被災した場合において、その後の収入に対する保証は何もない。多くの場合において長期間大幅な収入減が予想される。このことは一般勤労者に対してのみでなく、農業その他についても同様と考えられる。かかる収入減に対する損失計算は、無形資産の場合と同じく計算はほとんど不可能に近いが、といつて実際的にはこの面への配慮も忘れてはならない。

(3)有形資産の地理的区分


1 人当りの平均額を確定する計算を行うことは、損害額の総体を把握するための便宜的な手段であるが、1 人当りの平均額に換算することによる実情との遊離を少しでも少くするために、これを都会と農村に区分して計算した。被害地域面積が広くなるほど平均的なものに近づくことはいうまでもない。極端いつて日本全土が被災した場合には、都会、農村の区分も不要となるわけである。しかし実際にはある任意の一定地城に限定されるところに問題がある。附録 (B) において想定されたように、想定被災地城には大都市も中小都市も、農村も漁村もあろう。その各々について財産の賦存状態は平等でない。したがつて同じく 1 人当り平均額を考える場合にも、その各々について計算を行えれば、誤差はより少くなろう。

つぎに都会資産、あるいは農村資産の定義はどうか。ここでいう都会、農村の区分は、都会あるいは農村という言葉で代表される地域上の分類である。農業のための資産であつても、それが都会地に存在する限り、それは都会資産と見做されよう。例えば、市部に存在する土地は、それが農地であつても都会の土地として整理されるのを至当とする。

本試算においては、以上 2 つの考え方、すなわち細く区分すること、明確な定義による区分を行うことに努力した。しかし、実際には都会と農村の 2 つに区分することすら厳密明確な統一的見地からは不可能であり、各資産項目のそれぞれについて便宜的方法によつた点の多いことをことわつておく。

以上の 2 点を WASH についてみると、区分は都会、農村の 2 つとなつている。区分方法はさして明確とは思えない。公共団体所有 (Institutional) 政府所有 (Governmental) の構築物、生産者の耐久設備 (Producer Durables) の一部をそのまま都会資産として整理している。また、土地については前述の通り農地と森林を全部農村資産に計上しながら、その一部が都会にあると思われる「その他の私有地」「公有地」は全部脱漏している。この他は家畜類 (Live Stock)。作物 (Crops) など概ね農村に所在すると断定できるものを農村資産とし、農業用でない (Nonfarm) と明記されている構築物を都会資産とするなど無難なものも多いが、WASH の区分方法にもかなりの問題がある。

WASH の場合には都会資産と農村資産の 1 人当り平均額が偶然一致したのに対し、本試算では後述のように両者に大幅な差が生じたので、各級の損害計算にはかなり大きな影響をもつこととなつた。それ故、都会、農村の区分方法を詳述しておく方がよいと思われる。以下人口および各資産についてその区分方法を示せば次の通りである。

(イ) 人口

附録 (B) で想定した典型的地理条件から考えて、仮定被災地域の区分を 4 種とすれば都会、農村人口の割合は次の通り 6:4 となる。




都会人口と農村人口の比率
都会人口農村人口
A1000
B9010
C7030
D4060
全国平均6040

この比率を昭和 32 年の総人口 91,100 千人に適用すれば、都会人口 54,660 千人、農村人口 36,440 千人となる。以上の計算は他の資料から推定される人口比率と大差はないので、本試算ではこの計算方法による人口をそのまま採用する。

(ロ)有形固定資産および棚卸資産(除く家計資産)

経済企画庁調べ昭和 30 年国富調査および大蔵省調べ法人企業統計の業種別分類から農林水産関係資産を農村資産とし、その他を全額都会資産とする。

(ハ)家計財産

上述の国富調査から引用したが、これを区分する適切な方法がないので、WASH におげる消費者の耐久設備 (Consumer durables) と同様に、都会、農村に平等に配分した。

(ニ)土地

土地価格の計算は便宜上耕地、山林、原野、宅地、牧場、その他の 6 種に分類したが、その面積について農林省の統計があるのみで他は正確な資料がない。その各々については土地価額の算出方法とともに後述するが、「自治庁調べによる課税対象民有地の市部、郡部の区分、および前述の人口区分を考慮して適宜査定した。

2 損害額の試算方法と結果   ――   1 人当りあるいは 1 平方粁当り損害額


前述の通り、沈着放射能により影響をうける度合に従い 4 つの級別に分けた。

A 級と B 級は、立退きの緊急性においてやや相違があるが、この級に属する人々は立退きを強制され 1 年かそれ以上家に戻ることを許されない。

C 級では、農業は相当長い間停止されるが、都会居住者は、一時的立退きで済む。都会居住者の立退き期間は 6 ヵ月として試算した。

D 級では、都会居住者は影響なく、農業においてのみ現有作物の破滅と 1 年間の農業制限をうけることとした。

本調査における他グループの研究結果によれば、WASH の場合と若干の相違はあるが、ほぼ以上の 4 級別の分類ができ、損害計算も容易となるので、この方法によつた。

A 級 、B 級 : 立退き

    1 人当り損害額    都 会   600 千円
                      農 村   350  〃

この級に属する人々は土地の使用不能を含め全財産を喪失する。したがつて、損害額は土地を含めた全資産の合計額となる。

試算結果は第 1 表の通りであるが、都会と農村の損害額は、WASH の場合と異り大幅な差異が生した。わが国の場合、有形資産は主として都市に偏在し経済生活にも都会と農村とではかなりの懸隔があることを考えれば、このことはむしろ当然であろう。前述の通り、家計資産について都会、農村別ウエイトを同一にした点からみても、都会資産はむしろ相対的に過少評価されているともいえる。なお WASH では計算結果を 1 世帯の平均給与と比較して大まかな験算を行つているが、本試算結果について同様な験算を行える適当な方法はない。因みに、これを WASH の結果と比較してみると、都会では米国の 33% 農村では20%となる。

損害の対象とした資産内容について前述の通りの土地の範囲、資料の採用年次に大きな相
違のあること等を考慮して種々検討した結果、上記の数値は WASH の値との対比におい
ても一応の妥当性をもつものと判断された。

(立退のための損害額試算方法)
① 有形固定資産および棚卸資産 (除く家計資産)

基本として経済企面庁調べの国富調査(昭和 30 年)の有形資産評価額(除く家計)
をとつた。本調査は調査年次が昭和 30 年であり,現状とかなりの差があると思われ
るので、このうち営利法人資産を大蔵省調べの法人企業統計(昭和 33 年)に表示さ
れた数値と置きかえた。

都会と農村との区分は、国富調査、法人企業統計とも農林水産業に属する資産を農
村の有形資産とし、他を都会の有形資産とした。


② 家 計 資 産

同じく国富調査から家計に属する有形資産評価額を採つた。調査年次は昭和 30 年。

③ 土 地

前述の通り土地を 6 種類に分類して計算したが、面積および単位当り価格の出所は
次の通り。

a 耕 地

面 積‥‥‥農林省統計調査部資料(昭和 32 年)
価 格‥‥‥日本勧業銀行調査部調べによる全国平均中品等売買価格(昭和 33 年)
都会と農村の区分方法

自治庁税務部調べによる田畑の市部、郡部別の比率(昭和 31 年)を全面積に適用すると、やや都会の耕地面積が過大になると思われたので、市部に存在する民有地をそのまま都会の耕地面積とし、他を農村に所在する耕地とした。

b 山 林

面 積

林野庁調査(昭和 31 年)によつたが、賠償の対象とする範囲と売買価格調査方法から考えて、全面積から「林道の新設によつて開発しうる森林」および開発の困難な森林」(両者合計で全面積の 12.9% )を除く面積を採つた。

価格 ‥‥‥ 日本勧業銀行調査部調べによる全国平均山林素地売買価格(普通)― 昭和33年。

なお、この価格は市町村内の中庸地の価格であり、交通運材ともに不便な水源地帯などの分は含まれない。

都会と農村の区分方法

自治庁税務部調べによる市部、郡部別の比率は 19.8 : 80.2 となるが、実情から考えて全面積を農村とした。


以上は全て山林素地についてであつて立木価額は資料の関係から計上できなかつた。実際には素地のみでなく立木 (蓄積石数と樹齢から考えた成長良) も賠償の対象として考慮すべきであろう。

c 宅 地





面 積

全国の総面積を調査した資料がえられなかつたので、自治庁税務部調べの課税
対象民有地面積 (昭和 31 年) を計上した。都会と農村の区分も同調査による市部、郡部の比率をそのまま採用した。

価 格

単位当りの売買価格の調査資料はない。しかし都市の売買価格については、
自治庁税務部において勧銀調査資料から換算した推定売買価絡 (都市分) ― 昭和 33 年 ― が
あるので、これを都会の宅地売買価格とした。

農村の宅地売買価格については推定した資料もない。それ故宅地以外についての自治庁の評価指示価格と勧銀の売買価格との比率を参考として評価指示価格から売買価格を推定し、これを農村宅地の売買価格とした。

d 原野および牧場

面積および部市、農村の区分方法

原野の総面積について農林省統計調査部の資料 (昭和 32 年) があるのでこれ
を採つたが、牧場については正確な資料がないので、自治庁税務部調べ (昭和 31 年)による課税対象民有地面積をそのまま全面積とした。

都会、農村の区分は、牧場については自治庁調べの市部、郡部別の面積を夫夫
都会、農村の面積とした。原野については、市部の民有地を都会の原野面積とし総面
積からこれを差引いたものを農村の原野面積とした。

価 格

農村宅地と同様な方法によつて算出した。評価指示価格の売買価格に対する比
率を 0.24 とした。


e そ の 他

以上の耕地、山林、宅地、原野、牧場の他の主なものとしては、塩田があるが、これは地域的に偏在しており、全国平均数値に算入するのは適切でないと思われるので、とくに価格の計算から除外した。

以上から、立退きのための全国平均 1 人当り損害額は表 1 の通りとなつた。


表 1 立退のための損害額(全国平均)
都 会 人 口 54,660千人
農 村 人 口 36,440  
1. 都 会
億円千人円/人
有形固定資産および棚卸資産161,781/ 54,660/ 295,977
(除く 家 計)億円千人円/人
家計に属する有形資産60,054/ 91,10065,921
土 地124,273/ 54,660227,356
計 589,254円/人
 
2.農 村億円千人円/人
有形固定資産および棚卸資産11,209/ 36,44030,760
(除 く 家 計)
家計に属する有形資産60,054/ 91,10065,921
土 地95.416/ 36,440261,844
計 358,525 円/人


C級 : 一時立退、または生活様式に厳重な制限


1人当り損害額 都 会 100 千円

農 村 350 〃 

WASH によれば、この級での 1 人当り損害額の次のような老え方から計算されている。
すなわち、農家については、農業が相当長期間停止される結果 B 級と同様な損失をうける
のに対し都会居住者は 6 ヵ月程度の一時立退で済むことになつている。

本調査においても、一応この WASH の規定した第3級の定義によつて損害額の平均の
試算を行つてみた。

しかし、わが国の場合この C 級に示された損害頭の計算方法の適用されるケースは、極
めて少ないであろうと考えられる。何故ならば、この場合都会の建物については、6 ヵ月
間における放射能の自然減衰と人為的な汚染除去によつて、その後における居住が可能に
なるわけであるが、このためには当然建物内の汚染程度は戸外に比しかなり低いことが前
提となつている考えられるからである。わが国の居住家屋の大半が木造であるとした場合、
果して戸外、屋内の汚染程度の差を想定できるかは疑問であろう。大都布の中心部に位置
するピル街については、ほゞ米国と同様に考えられようが、居住地域について建物の内外
とも同程度汚染したと考えた方がよかろう。したがつて、この級におけるような損害額算
定方法は、理論上では一応想定できても実際には余り意味がないといえる。

以上のことを敢えて無視して、都会居住者についての試算方法と結果を述べれば次の通
りである。

都会居住者ほ、WASH と同様 6 ヵ月間住居を移転するものとする。移転先はもちろん
千差万別であろうが、―応現住地から 500 粁以上の移転するものとする。なお、以下の
数値は全て 1 世帯平均人員を 4.46 人 (総理府統計局調べによる全都市勤労者世帯 ― 33
年) としての計算の結果である。

一時立退きによる損害額 (1 人当り)

(a) 移転費用 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 10,000円

移転のための往復交通費のほか雑費を含む。

(b) 移転の間の収入喪失 ‥‥‥‥‥‥‥   2,044円

前述の通り、立退き期間中において当然予想される収入喪失ないし収入減少はあえて
考慮せず、WASH と同様移転に要する往復期間のみ収入を喪失するものと仮定した。

計算は、総理府統計局調べの全都市勤労者世帯の実収入額、月額 34,663円 (昭
和 33 年平均) を基礎とした。

(c)新しい宿舎の費用 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 6,726円

立退き先が縁故地であるか否かによつて費用は異るであろうが、4.46人家族の居住
可能家屋の平均家賃を月額5,000円とした。

(d)立退き期間中の家計支出の増加額 ‥‥‥‥‥ 34,031円

短期間中における大人数の移転、家具などの汚染などの事情を考慮すれば、移転先に携行できるものは家財の一部にすぎず、大部分は現住居に放置することとなろう。したがつて、移転先において家具、什器、衣服および身回り品などの最低生活必需品を新たに購入する必要がある。WASH ではこうした事情に基づく支出堵加を考慮していないが、家具などが家屋に付随している米国の場合とは事情は異る。

勤労世帯の家財(1世帯当り)
家具、什器46,569 円
衣服および身回品105,209  

151,778  
(昭和 30 年国富調査)

(e) 所有物の汚染除去 ‥‥‥‥‥ 46,285円

WASH の費用をそのまま計上した。

(f) 合計 (a-e) ‥‥‥‥‥ 99,086円

D級:手崩す作物・の破滅と1年閲濃業制限

1 平方粁当り損害額:5,000千円

WASHによれば、この級では損失は農業についてのみ考えればよく、損害額は 1 年間の農業収入を見積りの対象としている。

本調査もこれとほゞ同様に考えるが、1 年間の農業制限の結果として 1 年問の農業所得の喪失を考慮するのは必ずしも妥当といえない。

農業所得は月々かなり大幅な変動を示すのが音通である。したがつて、原子炉事故が何時起るかによつて損害額は異る。こうした事故の時期について一つの仮定を設ける必要はないだろうが、仮りに 1 年間の農業制限とは、1 年間農耕が営めず、被災時にあつた収獲物は廃棄するものとすればこのことは少くとも 1 年半程度の農業収人の喪失となるであろう。たとえば、いま原子炉事故が 8 月に起つたとしてみよう。稲作のみを収入源とする農家では、当該年間の収入喪失となるのみならず、翌年の稲作も不能となる結果 2 年間の収入喪失となろう。また稲作と麦作を営む農家では、2 年分の稲作収入と 1 年分の麦作収入を失うだろう。この場合もし稲作と麦作所得とを同額とすれば、1 年半の農業所得中喪失と仮定できる。したがつて、本調査では D 級における損害額を 1 年半の農業所得相当額と考える。

① 全国平均農業所得 (昭和 32 年度)
1戸当り            192,713円   (A)
② 全国農家数 (昭和 30 年)
1戸当り           6,042,915戸   (B)
③ 全国農業所得 ( 1 ヵ年)
(A) × (B) 11,645億円   (C)
④ 全国総面積
369,662平方粁   (D)
⑤ 1平方粁当り農業所得 (1ヵ年)
(C)
―― ‥‥‥‥‥‥ 3,150 千円   (E)
(D)

⑥ 1 平方粁当り損害額
(E) × 1.5 ‥‥‥‥‥‥‥‥ 4,725千円

(注)

① 農業所得、農家数はともに農林省統計調査部調べ

② 農業所得には自家消費分を含む

③ WASH の1平方マイル当り 25 干ドルを換算すると、1平方粁当り 3,475 千円 (1 年間)となる。


この場合、WASH においては被災地域が米国東部海岸に限られるとして計算しているが、わが国の場合最大事故に伴う被災範囲半径には全国土が包含されることも予想されるので、特定地域を考えず全国平均の農業所得を損害計算の基礎とした。






III 人的損害額の試算基礎

人的損害の評価に当つて、まず問題となるのは、人間の価値を一律に金銭的に換算した価額が存在するかということである。人間の尊厳と平等の原理からすれば、何かこうした一定の絶対的な価額が存在して然るべきかめようにも思われるが、こうした数値は現実には見出せない。

身体、生命の侵害に際して支払われた額を実際の事例についてみると、その額は性別、年令、社会的地位(主としてその者の収入)、損害発生の状況、事後の経過等により全く千差万別である。精神的損害に対する慰謝料は、ある意味で財産的損害に比べて個々人の性別、年令、社会的身分に左右されない固定的部分であるべきであるが、実際にはこれも損害賠償額の中で物質的損害の不均衡を是正したり、被害者と加害者との関係を調整したりする緩衝地帯的な役割を果しているのにすぎない。

戦後発生した幾多の交通事故による集団災害についてみても、そのほとんどが訴訟事件とならず示談による慰謝金の支払となつており、表 2 に示す通り、その金額は 1,000 円から 1,000,000 円以上まで種々様々であり、しかも示談の場合には関係当事者がその内容の公表をはばかるため不明確な点が多い。

本調査における人的損害額の算出は、物的損害額の試算の場合と同様に、影響の度合によつて 4 つの級別に分け、その各々について 1 人当りの損害額を試算するという手法を採つたが、以上のよう諸事情からその試算には非常は無理が伴つた。

このような平均一律の 1 人当りの損害額を試算するという方法は、主として人的損害の総額を算出するための計算上の便宜的手段ではあるが、といつてその結果に人数を掛けた損害額は必ずしも実情と全然かけはなれたものになるとはいえない。何故ならば、これを 1 人当りの評価額としてのみ考えると無理のある数値であつても、特定の被災集団の年令、性別、社会的身分等の構成が、全国のそれと全く同一のものであると考えるならば、この 1 人当りの数値に人数を乗じて得られる損害額は、より適正なものに近づくからである。本調査における人的損害の試算方法は、以下に述べる通り、次のような各項につき通常の損害賠償額の算出方法にのせてこれを評価した。



原子炉事故に伴う賠償金の支払いは、近く国会に上提が予定される原子力損害賠償保障法により、明確な法律上の損害賠償責任の履行という形をとるから、このような項目による損害額試算方法も決して的はずれのものでない。また試算結果については、実際に起つた集団災害の事例によつてこれをチエツクした。

なお試算の前提とした放射線の被曝量と障害、死亡の発生率との関係は附録 (D) 第 7
図を参考として決めた。


以上を基礎として被曝線量と影響をうける度合との関係を次のように 4 つの級別に区分し
た。その各人における治療費および治療期間は表 1 に示す。

第 1 級‥‥‥‥被爆量 700r 以上
被爆後 2 週間以内に全負死亡
第 2 級‥‥‥‥被曝量 700r ~ 200r
全員放射線障害の病状を現わし一部は死亡
第 3 級‥‥‥‥被爆量 200r ~ 100r
障害はうけるが全員治癒
第 4 級‥‥‥‥被爆量 100r ~ 25r
明確な障害の発生はないが、診療と検査は必要

表 1  放射線被曝量と治療費とその関係
1 点(甲地)10.50円
(乙地)10.00円

第 1 級 : 700r 以上 ・・・ 被曝後 2 週間以内に死亡するものとする。
(a)治療費
入院料61 点× 14 = 854点
輸液(糖リンゲル 3,000CC/日として)
167点×14=2338点
輸血(400CC/日として)
325点×10=3,250点
抗生物質(テトラサイクリン 1.0g/日として)
41点×14=574点
(b)検査料
末梢血58点×14=812点
ヘマトクリツト12点×5=60点
骨髄検査110点×3=330点
心電図80点×2=160点
脳 波160点×1=160点
X 線撮影70.9点×4=283.6点
電気泳動50点×2=100点
その他300点×1=300点
第 2 級 : 200 ~ 700r ・・・ すべて放射線障害の病状を現わし、別表の死亡率で死者を出すものとする。。
(a)治療費(死者は 60 日以内に死亡するものとする)
入 院 料(180日の入院を必要とみて計算)
第 1 月61点×30=1,830点
第 2 月58点×30=1,740点
第 3 月〃×30=1,740点
第 4 月55点×30=1,650点
第 5 月〃×30=1,650点
第 6 月〃×30=1,650点
輸   液(糖リンゲル 2,000CC/日として
133点×30=3,390点
輸   血(200CC/日として)
165点×10=1,650点
抗生物質(テトラサイクロン 1.0g/日として)
41点×20=820点
(b)検査料
末梢血58点×30=1740点
ヘマトクリツト12点×20=240点
骨髄検査110点×10=1110点
心電図80点×5=400点
脳 波160点×2=320点
X 線撮影70.9点×5=354.5点
電気泳動50点×3=150点
その他600点×1=600点
第 3 級 : 100 ~ 200r ・・・ 死者はないものとする。
(a)治 療 費
入 院 料(90日の入院を必要とみて計算)
第 1 月1,830点
〃 2 〃1,740点
〃 3 〃1,740点
輸   液(糖リンゲル 1,000CC/日として
59点×14=826点
輸   血(200CC/日として)
165点×10=1,650点
抗生物質(テトラサイクロン 1.0g/日として)
41点×14=574点
(b)検 査 料
末梢血検査58点×30=1740点
骨髄検査110点×6=660点
ヘマトクリツト12点×10=120点
心電図80〃×2=160〃
脳 波160〃×2=320〃
X 線撮影79.5〃×3=238.5〃
電気泳動50〃×3=150〃
その他500〃×1=500
第 4 級 : 25r ~ 100r ・・・ 検査のみ 90 日間観察するものとする。
検 査 料
初診料18点
末梢血検査58点×4=232点
電気泳動50〃×1=50〃
その他300〃×1=300

1 障害

物質的障害

(a)得べかりし利益の喪失(休業補償)

ここでは障害を受けた人が病院に入院し治癒までの期間職業につけないものとしてその場合の収入の喪失を計算する。その場合 1 人 1 日の収入は次の如く計算した。


昭和 33 年度経済企画庁編「国民所得報告書」の可処分所得のうち勤労所得と個人事業主所得の合計金額 68,865億円を、その年度の推定総人口 9,205万人で除すると 1 人当り平均所得は年額 74,812円、1 日当り約 205 円となる。したがつて 180 日入院の場合は 36,900円、90 日の場合は 18,450 円となつた。


この場合可処分所得のうち、障害を受けて働けなかつた期間に失うのは、主として勤労所得と個人事業所得であるから、死亡の場合も同じ)、他の種類の所得はすべて対象としなかつた。ここでこれらの所得を総人口て割ることが問題であるが、所得を有する者と有しない者との区別を年令的に一線を引くことは繁雑であり、また特定被災地域の所得額を算出することはできないので、被災集団人口構成(有所得者と無所得者のだ比)およびその所得が全国平均と同じと考えて、便宜上全員が所得を有することとした(他所においても同一の考え方)。


ここでは、休業補償のみを取扱い、一度一定の線量を受けたため、後で特定の職業
にはつけなくなるとか、あるいは、レントゲン技師のような場合は治癒しても再ぴそ
の職業をつづけるのに困難を生ずるような場合は一生を通じての得べかりし利益の喪失
があるが、算出の手がかりがつかめないので省略することとし休業補償のみを考えた。


(b) 治 療 費

治療費は被爆線量と治療期間を示した表 1 にしたがつて点数を計算しこれに甲地
の 1 点単価 10.50 円を乗じてきめる。乙地の単価を採用しなかつたのは、これらの
治療は都会の大きな病院でしかおこない得ないような種類のものが多いからであり、
相当十分な手当をするものとした。年令、性別による治療期間の差違はここでは考え
ない。


治  療  費
(i) 180日の入院 ‥‥‥ 10.50円 × 21,034.5点 = 220,862円(第 2 級)
(ii) 90日の入院 ‥‥‥ 10.50円 × 12,248.5点 = 128,609円(第 3 扱)
(iii) 検 査 のみ ‥‥‥ 10.50円 × 600 点 = 6,300円(第 4 級)

(2) 精神的損害 ― 慰謝料

前述の如く慰謝料には、一定の金額もまた確定された算出方法もない。したがつて最
近の判例のいくつかを参照して決めることとした。放射線障害では、交通事故の如く手、
足を失つたりすることはないが、たとえ一度治癒しても遅発生障害の危険性には絶えず
おびやかされるものであり、この点から考えても以下の慰謝料は高くないと考えられる。
第 4 級は5万円と一応考えたが治療費とのパランスから多少引き下げることとした。


昭和 32 年度の下級裁半所民事裁判例の交通事故の傷害についての慰謝料を集計する
と表 2 の如く 5 万円から 15 万円の幅になる級別によつて下記の如く分けた。障害の場
合の慰謝料については、被害者の近親者からの請求も考えなければならないこともある
が、ここでは省略する。もつとも放射線障害の場合は、実際上はあまり問題にならない
と思われる。


第 2 級15万円
第 3 級10万円
第 4 級5万円

表 2  傷害の場合の慰謝料の金額
5万円
未満
5万円
以上
10万円
未満
10万円
以上
15万円
未満
15万円
以上
20万円
未満
20万円
以上
25万円
未満
25万円
以上
30万円
未満
30万円
以上
35万円
未満
35万円
以上
40万円
未満
40万円
以上
45万円
未満
7件 10 8 1 4     1  
1〃 1              
子供   2 2   2       1
8〃 13 10 1 6 0 0 1 1

2 死 亡

(1) 物質的損害

(a) 得べかり利益の喪失

一般に得べかりし利益の算出は、死亡した者の生存するはずであつた平均余命を調
べて、その期間に入る収入を計算する。そしてさらにこれをホフマン式計算法により
中間利息を控除して一時支払額を決定する方式をとつている。不特定多数の集団にお
ける得べかりし利益の算出をこのホフマン方式でおこなうこと自体無理であるが、何
とかこの方式にのせる形をつくつてみると以下の如くになる。

死亡の場合の物質的損害は死者の得べかりし利益の損害賠償請求権が相続された時
に問題となる。この場合被扶養者が被扶養権の侵害という形で得べかりし利益の賠償
をおこなうこともあるが、ここでは、一度本人に生じた損害賠償請求権が相続された
ものと考える(判例ではこの考えを否認したものもあるが学説はいろいろな角度か
らこれを説明して肯定する立場をとつている)。1 人当り損害額についてホフマン方
式をあてはめる場合に必要な数値は、得べかりし利益の年額と平均余命である。得べ
かりし利益は収入から生活費を差引いたもので、収入金額としては前述の障害の場合
と同じ国民所得の 1 人当りの数値をとることとする。この点の考え方については前述
の通りである。しかし判例では、現実に所得のない学生、女性について、前者の就職
した場合の初任給、後者の一般的労働所得を類推してホフマン方式を適用した例もあ
る(戦後では女性や学生等の場合請求する方が慰謝料しか請求していないので、この
点は決定的ではない)。 そのような考え方に立てば国民所得の実績にさらに何パー
セントかプラスをしたものを得べかりはし利益とせねばならないが、これこついての適
切な推定方法がないので、評価の対象としなかつた。生活費は扶養家族のない場合に
は収入の 80% と見做されることとなつている。したがつて得べかりし利益の年額は
14,962円となる。


つぎに平均余命であるが、被災集団の年令性別構成が全国平均と同じであると考え
て、その集団の平均余命としては、男女各々の年令別の平均余命に、その年令の人口
を乗じたものの総計を全人口で割つたものを用いることとする以外に方法がないと思
われる。これを計算すると 41.2 年となるのて法定利率を 5 分としてホフマン方式を
適用することとした。以上の数値は最近の資料がないので、性別、年令別人口は昭和
30 年の日本統計年鑑により、年令別平均余命は第 9 回生命表(昭和 25 年~ 27 年)
を使用した。


ホフマン方式として従来もつとも利用されたのは、Aを得べかりし純利益の年額、
nを年数とすると、という式であつたが、これでは年々収入がある
のに最初の第 1 年目の収入についても n 年分の利息を引くことになり、損害額は不当
に小さくなるので、最近では、1 年毎の純利益について別々に中間利息を引く方法、
すなわち


という式、さらには 1 ヶ月毎に計算する式、すなわち


という式が多く使われており、今後はこの式が一般式となろう。したがつてここでは第 3 式によることとした。この計算は非常に複雑であるが、速算表が出来ており、裁判所にも備えられている。


以下それぞれの場合を示すこととする




(第 1 式)    国民の
個人所得×

× 国民の
平均余命年数
総人口

1 + 0.05 ×国民の
平均余命年数
74,812円 × × 41.2
=
= 201.134 円
1 + 0.05 × 41.2
第 2 式平均余命年数後 1 度に収入するものとせず、1 年毎に、収入するものとして計算する
74,812円 ×
× 21.97048397 = 328,724 円

第 3 式1 月毎に収入するものとして計算する
74,812円 × × × 268.278441 = 334,507 円
※法定利率による単利年金現価表による



(b) 治 療 費

この場合は死亡までの治療費である。これは本来相続人ないしは扶養義務者から請
求されるが、ここでは本人の損害として考えることとする。その期間と費用は以下の
通りである。


                 治 療 費   (死亡までの)
    (i)  14日以内の入院後死亡     10.50円 ×  9,221.6点 =  96,867円
    (ii) 60日以内の入院後死亡     10.50円 × 14,344.5点 = 150,617円

(c) 葬 祭 費

葬祭費については、全く一定した金額がないので、昭和 32 年度下級裁判所民事裁
判例から、50,000円と推定した。その根拠は次のとおりである。


葬 祭 費 用 の 例
(i) 50,000 (i)85,000
(ii) 100,000 子供(i)55,000
(iii) 87,000 (ii)16,000
(iv) 50,000 (iii)10,000
(v) 88,000 (iv)32,000
(v)46,000

精神的損害 ― 慰謝料

生命侵害の場合の慰謝料も、民法 711 条がある以上近親者の請求で問題となりうる
と考えた方が論理的で、慰謝料請求権は相続されず一身専属的なものであろうが、ここ
では、一応物質的損害と同様に考えることとする。この算出も逐次定型化されつゝある
が、現在未だ明確ではなく、障害の場合と同じく昭和 32 年度下級裁判所民事裁判例の
中、交通事故による死亡に対する慰謝料をみると下記の如くであり、さらに集団災害の
事例を考慮して 350,000円とした。


死亡者の場合
0~

5万円
未満
5万円
以上
10万円
未満
10万円
以上
15万円
未満
15万円
以上
20万円
未満
20万円
以上
25万円
未満
25万円
以上
30万円
未満
30万円
以上
35万円
未満
35万円
以上
40万円
未満
40万円
以上
45万円
未満
  1 2   3   4    
      1 1     1 1
子供   1   1 1 1 3   3
  2 2 2 5 1 7 1 4

45万円
以上
50万円
未満
50万円
以上
55万円
未満
55万円
以上
60万円
未満
60万円
以上
65万円
未満
65万円
以上
70万円
未満
70万円
以上
75万円
未満
75万円
以上
80万円
未満
80万円
以上
85万円
未満
  1            
  1     1      
  1           1
  3     1     1

むすび

以上を一表にまとめると、それぞれの場合の 1 人当りの死亡および障害による損害賠償
額は被曝量との関係において次の如くになる。

第 1 級 第 2 級 第 3 級 第 4 級
700r以上 700r ~ 200r 200r
~ 100r
100r
~ 25r
全員 2 週間
以内に死亡
死亡者は 60 日
以内に死亡
障害者は
180 日で治癒
90日で
治 癒
検査のみ




得べかりし
利 益
(死亡者)
334,507円 334,507円
休業補償
(障害者)
36,900円 18,450円
治療費 96,827 150,617 220,862 128,609 6,300
葬祭費 50,000 50,000
小計 481,334 535,124 257,762 147,059 6,300




慰謝量 350,000 350,000 150,000 100,000 30,000
総計(1人当り) 831,334 885,124 407,762 247,059 36,300

ちなみに、戦後の著名な集団災害における慰謝金支払の例をみると次のようになる。


集団災害の慰謝金
事件名 事件発生
年月日
死者数 1 人当り慰謝金
児童(1才~10才) 青年男女(主として学生) 成人 備考
ジフテリヤ予防接種禍事件 23.10 68人 100,000円 平  ― 平均年令 2 才
桜木町事件 26.4.24 103 人 187,000円
木星号事件 27. 4. 9 37 人 平均 1,000,000円
一律  100,000円
100,000円は葬祭料
洞爺丸事件 29. 9.26 1,052人 事件当時    100,000円 300,000円 500,000円 海難審判で過失が確定
65,000 円 65,000 円 65,000 円  
その後    200,000 円 200,000 円+α 200,000 円+α 10,000円は供物料
10,000 円 10,000 円 10,000 円 αは個人差による
1人平均 1,050,000 円になる    
相模湖事件 29.10. 8 22 人 1,000 ~ 2,000 円 履行したか否かも不明
森永ドライミルク事件 30. 6 79 人 250,000 円      
参宮線 31.10.15 39 人 平均   700,000 円?


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