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「大型原子炉の事故の理論的可能性及び公衆損害額に関する試算」 まえがき

まえがき

本報告書は、科学技術庁が日本原子力産業会議に委託した調査「大型原子炉の事故の理論的可能性及ぴ公衆損害に関する試算」の結果をとりまとめたものである。
本調査の目的は、原子力平和利用に伴う災害評価についての基礎調査を行い、原子力災害補償の確立のための参考資料とすることにある。その第一段階として本調査は大型原子炉(とくに発電用大型原子炉)を想定し、種々の条件下における各規模の事故の起る可能性および第 3 者に及ぼす物的人的損害を理論的に解析評価したものである。
諸外国においてもこの種の調査はほとんど前例がなく、わずかに米国において 1957 年に原子力委員会が行つた調査「公衆災害を伴う原子力発電所事故の研究」(原題 Theoretical Possibilities and Consequences of Major Accidentes in Large Nuclear Power Plants,(WASH-740) があるだけであり、本調査の委託に当つてもこの米国の調査(以下 WASH と略称する)の解析方法を参考とすることが指示されていた。従つて我々は時間的経済的制約の下で本調査を行うに当つて、できるかぎり WASH の解析方法などを利用しようとし、そのためにまず WASH の検討から手をつけた。しかし WASH の研究が行われてからすでに3年を経過していること、また我国の特殊事情などのために WASH をそのまま流用しうる部分は少ないことが判明したので、このような観点から現在の時点において我々に課せられた範囲内でできるかぎり科学的根拠をもつた解析をしようと試みた。
大型原子炉の運転が出じうる公衆への危険の大ぎさを全休に評価するためには、次の4つの本質的且つ非常に困難な問題をといて行かねばならない。すなわち
(1)分裂生成物が原子炉から放出されて公衆のいる地域へ放散される可能性如何。
(2)放散された放射能の公衆地域への分布をきめる要素又は条件如何
(3)人的又は物的損害を生ずる曝射あるいは汚染の水準如何
(4)万一分裂生成物の放散があつたときその結果生じうる死亡者障害者の人数および物的人的損害額如何
本報告は第1章において(1)の問題を論じており、第2章において(2)、(3)の説明すなわち損害額等の試算に当つて採用した基本的考え方と仮定を明らかにし、第3章においてその結果すなわち(4)を記述した。
この調査において取組んだ重要な要素の大部分は理論的にも実験的にも未確定のものであり、最終的にはそれそれの分野の専門家の意見をもとにして割切つて行くという方法をとらざるをえないものである。そういう事情から、本調査全体は、重要な諸問題点を指摘確認し、それら諸問題点の現在可能な最良の評価を行うことにあり、その複合された結果の大ざつぱな近似以上のものではない。
最後にとくに強調したいことは、この報告書に含まれた結論は、多くの本質的で重要な条件を前提としたものであり、又大きな不確かさを伴つていることである。これらの条件や不確かさをぬきにしては本報告の結論自体全くその意味を失うといつても過言ではない。それほど本報告の結論とその前提条件・不確かさとは密接不可分のものであり、これらを―括して正しく読みとつてはじめて、おこりうる公衆損害の標準的な大きさの桁を与え、―応の限界を定めうるものである。本報告書を利用される方々はこの結論や結果の数字だけを濫用されることのないよう、くれぐれもおねがいしておきたい。
なお、報告書とりまとめを急いだため表現の不統―などが多くなつたが、御寛恕をおねがいしておきたい。

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