Monday

Impact on marine environment of the radioactive release resulting from Rokkasho Reprocessing Plant into the Pacific Ocean

Reference:水口憲哉「放射能を海に棄てないでください」
青森県六ヶ所村再処理工場の稼働が遅れているわけ

東京水産大学(現東京海洋大学)で30数年、全国の漁業における環境問題、特に原子力発電所と漁場との関係についてずっと研究してまいりました。今日は青森県六ヶ所村で稼働予定の「再処理工場」の抱える危険性についてお話ししたいと思います。




再処理工場の危険性について、正しい事実を知り、それが自分たちにとってどういう意味を持つのかということを肌で感じることが、いま一番大切なことです。

再処理工場というのは非常に分かりにくく難しい言葉です。リサイクルできて良いみたいに思えますが、とんでもありません。

いま日本には54基の原子力発電所があります。原発が運転されると、使用済み燃料という、ウラン燃料の燃えカスが出ます。これは非常に危険なものなので陸上を運搬できず海上を船で運搬します。それが今はみんな青森県の六ヶ所村にある日本原燃株式会社の再処理工場に運びこまれています。

再処理工場では、ウラン燃料とプルトニウムを作ります。プルトニウムというのは、核兵器の原料です。そのプルトニウムを日本では、無理やりウラン燃料と一緒に混ぜて「MOX燃料」という燃料にして、原子力発電所を動かそうとしています。これがプルサーマル計画です。ただし、問題が多く日本では実現していません。

六ヶ所村の再処理工場は2006年の3月31日に試運転が始まって、今年の夏から本格稼動かといわれていましたが11月に延び、さらに来春に伸びています。もともと当初の計画では7年前に本格運転が始まっているはずなのですが、様々な問題や事故が次々と起きて、遅れているのが現実です。


アメリカ、ドイツでは危険すぎて建設していない再処理工場

再処理工場は何が問題なのでしょうか。第一に本来は原発に依存しない社会が望ましいのですが、原発を頼りにする社会が持たざるを得ない必要悪であるということ。第二に、再処理工場は核兵器の原料であるプルトニウムを作り出してしまうということ。そして第三に、大事故が起きたら原爆、水爆投下と同じようなことが起きてしまうということです。
アメリカのスリーマイル島原子力発電所やチェルノブイリ事故を皆さんは覚えていらっしゃることと思います。茨城県の東海村にあるちいさな規模の、ほとんど故障続きで動いていない再処理工場や、六ヶ所村で本格運転が始まろうとしている再処理工場の事故が起こったら、原爆や水爆投下と同じことで、風下の地域住民は何10万人と死亡すると、国は想定しています。それだけ大変なものなのです。

ですからこれまで、アメリカやドイツは危険すぎて商業用の再処理工場は建設していません。特にドイツは住民の大変な反対運動で計画を中止しています。ドイツは原発そのものも国と電子会社が話し合って、原発を止めることですすんでいます。

マスコミは原発の事実を報道しない

第四に、再処理工場は普通に運転するだけで、日常的に大量の放射能を海や大地に垂れ流します。この、海に放射能を捨てることについて、食べものとの関係を考えてみたいと思います。 
 まず、再処理工場では、どうして放射能が捨てられるのか。

原子力発電所から出た使用済み燃料は、再処理工場に運び込まれます。金属のパイプに入っているのですが、それを裁断して削って溶かすことでウランとプルトニウムになります。その過程で色々な気体性の放射性物質が出ます。それらは大気中へ捨てられます。同時に液体性の放射性物質もたくさん出てきます。そしてそれらは、まとめて海へ捨てられます。

この海洋中への放射能排出が問題なのです。

しかしながら、これまで多くの人たちに知らされませんでした。今から20年ほど前に青森県の県民シンポジウムで、再処理工場と漁業との関係を話しことがあります。すると地元の東奥日報新聞社から原稿依頼がありました。私は原稿に、再処理工場が海に捨てる放射能は、三陸海岸まで流れると書きました。これは青森県だけの問題ではなく、広く大きくもっと遠くまで、隣の三陸海岸まで流れていくものだという意味です。

ところがこれを東奥日報が気に入らなかったのか、原稿依頼をしておきながら掲載を断られました。青森県のマスコミは、県外、特に岩手県が関心をもって動き出すことを恐れたのです。

NHK青森と岩手と秋田の3県の共同制作で、各地の漁業について話をしたことがあるのですが、最後のまとめで、これから東北の海で心配なことの一つが、再処理工場から流れる放射能が三陸の海に流れていくことだ、とほんの少し話しました。すると録画終了後、青森のディレクターがその部分を削除してほしいといいました。

青森県NHKや東奥日報というマスコミが、再処理工場の問題を外に知らせないように、電力会社のためを思ってやっていることです。本当は広く国民に知らせなければならない事実なのに、逆にそれをひた隠しにしてきているのが現実です。

年間約47000人分の致死量の放射能が六ヶ所村で捨てられる

  再処理工場は大量の放射能を海へ捨てますが、それを国は許可しています。国のお墨付きがあることを、再処理工場を運転する日本原燃という会社は、ひたすら隠そうとしてきました。

2005年11月26日の岩手日報に「『本県漁業者 募る不安』環境影響、安全性は…。情報公開を求める声」というタイトルの大きな記事が出ました。その記事で初めて、日本原燃の広報担当部長が、「放射能は薄めて流すから大丈夫だ」と認めました。

原子力発電所が事故で放射能を排出したり、1年間で捨てる放射性廃液を、再処理工場は1日で捨てます。即ち、原発は全国で約54基ありますが、すべての原発が1年間に捨てる量の6倍もの放射性廃棄液を、六ヶ所村再処理工場の1工場で捨てます。

これは大変な量です。日本原燃が国に出している安全審査の申請書に、この数値がはっきりと出ています。原子力発電所も放射能廃液を捨てているのですが、再処理工場はべらぼうに量が多いのです。そしてそれを国が許可しています。

再処理工場では、放流管という管を海の底を何キロも這わせていって、そこから捨てようとしています。薄めて遠くに流し、影響を見えにくくしている。これは工場の煙突と同じですね。廃棄物や有害物がすぐ地元に降ってしまったのでは病気になって問題が起こるので、出す量は減らさないで遠くにとばしてしまおうというわけです。

それに対して、放射性廃棄物や放射性物質を使う医療施設について反対をしていた盛岡の永田文夫さんの試算によると、再処理工場から捨てる放射性量は、仮に廃液がそのまま口から体内に入った場合、年間約47000人分の致死量になります。この恐るべき数字に対して日本原燃は、「廃液は大量の海水で希釈されます。直接飲むことはありえません」と答えています。そんなこと当たり前ですよね。こうやってごまかしているのです。「猛毒ではない」とは言わないのです。

ここでの注目点は、第一に、放流口では、飲むどころかそこの水中にいるだけでも大変危険な量を捨てているということです。飲む以前に、廃液が出てくる海にいただけで大変なことが起きるほどの量なのです。第二に、放射能に汚染された海藻が意味すること。第三に、海中の放射能を私たちは海産物を通して摂取することになること。これらの問題を次に説明します。

再処理工場周辺の子どもの発ガン率は10倍
UK's Sellafield nuclear power plant
イギリスのセラフィールド核燃再処理工場近くでは、放射能汚染した海藻が大量漂着した結果、周辺海岸の25kmを閉鎖しています。再処理工場周辺では、子どもの白血病などの発ガン率は、他の地域の10倍になっています。これは英政府が調査して認めている事実です。恐ろしいことにこのことはマスコミではほとんど、全く報じられません。
 英国議会は、再処理工場からの放射能漏れで魚が大量に汚染されていることについて、セラフィールド再処理工場は世界最大の放射性廃棄物、排出源であり、その結果、アイルランド海は世界で最も放射能の高い海となっていると厳しく批判しています。

放射能廃液を海に捨てたとして、希釈されるから本当に問題ないのかというと、薄まることはあっても消えないし、なくなりません。

放射性物質のなかには、放射能の効力が半分になる半減期が、長いものでは1万数千年もあります。遠くまで流れていくというのはそのとおりだと思いますが、流れた先で海底に降り積もり、消えません。捨てられた放射能は、海の流れにのって拡がっていくことが予測されます。そして海藻や魚に付着し、取り込まれ、濃縮されます。

例えば放射能がプランクトンに付着し、プランクトンを小魚が食べて、小魚を大きな魚が食べて最後は人間が食べます。だんだん体の中に入ってくるにつれて、放射能が濃くなります。これを濃縮といいます。海水中に1あったものが人間に戻ってくるときには100になったり、1000になったりするわけです。

なぜそうなるのか。私たちの血液には鉄分が入っています。採り入れた鉄分が血液などにとりこまれるのは、私たちの体のもともとの仕組みです。

ですから非常に厳しい話ですが、胎児性水俣病は、魚を食べて取り込んだ有機水銀を、母親が体内の赤ん坊へ結果として一生懸命与えていたために、発生しました。体は害のあるものとないものとの区別がつかないわけです。お母さんが、「この子は私の毒を吸い取ってくれたんだ」といっていたのはこのことなんです。濃縮は体の仕組みです。それがあるから私たちは生きていられるのです。原子力発電所の事故で、ヨウ素131という放射性物質が出てきます。チェルノブイリでもスリーマイル島でも、ヨウ素131を空気と一緒に吸い込んで、体内の赤ん坊が死産になる現象が起きています。母親は自分の中の赤ん坊を通して環境と深く関わっています。
1981年11月14日の朝日新聞に、「英の近海物高放射能」という記事が掲載されました。東大で放射線健康管理学を研究している東郷さんという準教授が、日本公衆衛生学会で報告した内容です。

東郷さんは、1978年から、1年半イギリスのロンドンで研究生活をおくっていました。その時に5人の子どもたちを連れて行きました。日本でも家族の放射能を研究者として測っていたので、帰国後測定したところ個人差はあったが、放射線量がいずれも数倍程度上がっていたということです。増えた分は再処理工場から捨てられたセシウム137です。帰国後は数値がどんどん下がり始めました。

東郷さんの子どもたちには魚の好き嫌いがあり、魚好きな子どもほどセシウム137の量が高かったというのです。悲しい話ですよね。「健康に良いから魚を食べなさい」といったら、食べた子どもの体の放射能の量が多かったということです。東郷さんは、「英国近海の魚は日本産に比べ、1000倍以上の放射能を持っています。(中略)放射能汚染が出るとすれば、英国の漁民や、特別に魚好きの人たちからだろうということです。」と書いています。水俣病が不知火海の沿岸で魚を食べていた人たち、漁業の人たちから問題が起こってきたという事実と重なります。

文部科学省の放射線医学研究所ではいま、国民のメニュー調査をしています。モニターが何を何グラム食べたかを細かく調べ、一方、再処理工場の周りの農産物や水産物の放射能量を測ります。そうするとその人が体内に取り込んだ放射能量を計算することができます。1年間の合計量を出し、その合計量が国際基準で決められた数値の下であるから良いということで、再処理工場を運転しようという考え方です。つまり、魚を食べる量が少なければ、放射能をいっぱい海に捨てて良いということになります。

このような調査と前提のもとで原子力発電所依存の社会が成り立っています。これは最も怖いことです。ちなみに、放射能は一番危険な環境問題のはずなのですが、環境省は扱えません。環境アセスメントの中に放射能のことは初めから入っていないのです。

青森で捨てた放射能は首都圏まで流れていく

青森県六ヶ所村の再処理工場で捨てた放射能はどこへ行くのでしょうか。

海流や潮の流れによる拡散状況を調べるために、六ヶ所村沖から1万枚の調査ハガキを流しました。放射能が流れ着く先を調べつつ、再処理工場の危険性を知ってもらいたかったわけです。この経緯は映画『六ヶ所村ラプソディー』にも出てきます。

各地からハガキが帰ってきました。特に地元の六ヶ所村からは109枚。実はさらに同じくらいのハガキの数が地元には漂着しているのですが、送り返していないということが分かっています。地元で大問題になっているなかで「自分のところに放射能が戻ってくる」ことをわざわざハガキで知らせるということは、辛い事ですし、協力するのを知られたくないという複雑な思いがあるわけです。岩手県から2通、宮城県から10通、福島県から3通。茨城県から60通ほど帰ってきました。銚子をこえて房総半島の千倉からも1通だけ帰ってきました。

一昨年は、クラゲの大発生が日本各地で問題になりました。クラゲの漂流する動きが、再処理工場で捨てられた放射能がどのように流れていくかを考えるひとつの参考になります。クラゲは砕かれたり、食べられたり、人間が陸に揚げて捨てたりして消えていくものですが、放射能は消えませんし、時間がたってますます、濃くなっていきます。

運転前から「損害賠償は600億円を用意してあります 」

反対したり、騒ぎすぎると風評被害で売れなくなるということを心配する人もいます。しかし、隠そうが、知らないふりをしようが、いずれ消費者は事実を知ります。

漁業者の中には反対したり、騒ぎすぎると風評被害で売れなくなるということを心配する人もいます。しかし、隠そうが、知らないふりをしようが、いずれ消費者は事実を知ります。魚は、食物連鎖の下のほうの小魚である、イワシやアジ、チリメンジャコなどは汚染が少ないのです。1種類を偏って食べずに満遍なく食べるようにすることです。長生きの漁村の食べ物は、豆と海藻と小魚だと昔から言われています。

政府の原子力防災指針改定素案でいう「再処理施設事故」には、例えば、通常よりも多く放射性廃液を棄ててしまった場合も含まれます。原爆や水爆が投下されなくても、それだけで大変な事故です。政府はそのような場合、食べ物を規制しようとしています。つまり魚を食べるな、ということです。そのようなところに私たちは生かされているのです。

モデルは青森県下北半島の漁業者です。彼は、地元で漁をしていれば、大気から降ってくる放射能や海に棄てられた放射能で身体に放射能を取り込み、海産物を食べて放射能を取り込み、陸での農畜産物を食べて放射能を取り込み、空気、地面から呼吸によって放射能を取り込む、と書いてあります。

年間の合計が国際的に決められた放射能より低いから安全であるとしているのです。取り込む放射能の量を計算されて安全だといわれても困りますよね。これが現実なのです。

2006年2月の朝日新聞に全国紙で初めて、「再処理工場は排水中に放射能を棄てる」という記事が掲載されました。そのなかで日本原燃の社長は、「甚大な影響を与えないようにしていく、万が一の場合は損害賠償をきっちりしていく」と言っています。運転する前からこのようなことを言っているのです。しかも説明会では損害賠償金として「600億円を用意している」と答えています。すでに保険へ入っているのですね。足りない部分は政府に面倒をみてもらうとまで言っています。

次の世代を苦しめないために

英国のセラフィールド再処理工場が運転開始してから40年以上経っています。全国で問題になっているアスベストも使用後やはり40年以上経っています。水俣病事件は50年経っています。同じ年にビキニの水爆実験があって、ミクロネシアの人々は今も放射能に苦しんでいます。ですから、私たちの次の世代が大変なことにならないために、私たちは何を考えるかということになります。

1954年、東京杉並区の「杉の子会」の活動が参考になります。10人くらいの女性の集まりだったのですが、メンバーに魚屋さんのおかみさんがいました。ビキニマグロ事件で魚が全く売れなくなってしまって、どうにかならないだろうかと会に相談を持ちかけたことがきっかけで、原水爆禁止の署名運動が始まり、日本中に広がり、そして世界にも広がっていったのです。その結果、イギリスやアメリカは30年後に実験を中止しました。少数の女性の思いが署名運動となり、世界的な動きを変えていくということにつながりました。

1960年代、すでにイギリスやドイツの研究者はアスベストの危険性を言っていましたが、日本はかまわずどんどん輸入して、学校や色々なところに使ったわけです。そしてようやく昨年製造、輸入中止になりました。
誤った判断やごまかし、無関心が、40 050年後に各地でいかに人々を苦しめるか。再処理工場も然りです。

今ならまだ間に合う─「いのちが大事」

青森県六ヶ所村の再処理工場は、まだ本格運転していません。まだ間に合うのです。今、停めてしまえば、放射能を海に棄てなければ、再処理工場に関しての危険性はなくなるのです。再処理工場反対と言う必要はありません。

「放射能を海に棄てないでください」と言うことです。

これに対して「放射能を海に棄ててもよい」と言える人はいないのです。大事なことは、色々な仕事と暮らしの人々が、それぞれの場で知り、知らせることをやり続けることなのです。10数年前、四国電力が伊方原発の出力調整実験をやろうとしたときに中国、九州、四国の女性が4000人近く集まって、「いのちが大事」と言いました。これに対し、電力会社や政府は何も反論できませんでした。

この運動が、実は一番、原子力発電所反対運動の中で、政府や電力会社が困る運動なのです。それと同じことで、再処理工場では食べものの問題として「放射能を海に棄てないでください」という声をあげることが大事なのです。
みんなが青森県六ヶ所の再処理工場について知って、それをまた知らせるという形で、次々と人々の関心の輪が広がっています。時間がきましたのでこれで終わりたいと思います。どうもありがとうございました。


水口憲哉「放射能を海に棄てないでください」
─青森県六ヶ所村再処理工場のなにが問題なのか
水口憲哉氏氏(東京海洋大学名誉教授)

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