附録 (E)
放出放射能の農漁業への影響
I 直接汚染による汚染度の推定
原子炉事故が起つた際、農地に生育中の作物は直接その放出物を受けるが、その程度は
作物の生育のステージ、耕地上の作物の密度、作物の種類、形態によつて相異する。
そこで、大ざつばな推算を行うには、次のように種々の想定を用いて食用部分への各核
種の蓄積量を求める。
a | 放出物の降下量の 1/2 が食用植物に附着するものとする。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
b | 葉菜類の収穫量を 2Kg/n2 (1)とし、水洗効果を 50% (2)とすれば、各核種が野菜に 蓄積される量は 降下量/m2 × 1/2 × 1/2 × 4/2 /Kg(生野菜)となる。 根菜類(いも、大根、ごほう)では食用部分が葉部でないからこれよりかなり小さくなる筈である。又、豆類にてもその可食部は 1 部であり、また「さや」を食用としないもので は更に小さくなる。しかも、子実部がまだできないうちに被災した場合はより以上その蓄 は小さい。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
c | 米麦類では出穂期前こ被つたとき、附着したSr89,90の 0.05% 以下、Cs137 の 10% が米麦粒中に入り、出穂後に被つたときは、Sr89,90の 1%、Cs137の 10% が入るものとする。(3) また、被災のときにと幼若なステージにあれが、収獲期までの雨による水洗効果、成長 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
d | したがつて、米麦収量を 0.3Kg/m2(1)とすると、
ただしこれは玄米麦の場合であつて、精白部はこれより低くなるが、その値は被災の そこで、米麦の場合の出穂後被災のとき、野菜の場合では土壌からの吸収によるものを | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
e | I131については米麦にては保存するから問題からはずし、野菜についてはSr、Csと 同様な考慮から降下量/m2×1/2×1/2×1/2 /kg とする。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
f | 被災地域の牛乳中にあらわれる核種は乳牛が被災時にそれらを吸入することと、汚染さ れた食物をせつ取することによつて生ずるが、前者は短期間に限られ後者は持続される ので、或程度以上長い半減期をもつものについては吸入のえいきようは無視できる。また、 I131(半減期 8 日)についても、その消化管吸収率が非常によいので、相対的に食物 からのせつ取が主たるものと考えて計算できる。 また。乳牛の飼料は欧米と異なり、北海道のようによく牧草地の発達した地域をのぞく このように飼料の変化が大きいので一概に計算できないが、汚染の最も考えられる牧草、 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
g | 大ざつぱに、生育密度を野草 0.6 Kg/m2、牧草 4kg /m2とし、野草地における降下 物の附着率を 1/8 牧草地のそれを殆ど 1 に近いとする。ただしこれは降下時のことで、 気象状態によつて時間の経過と共に洗らわれて地中に入ることは当然である。 成牛 1 日の生草せつ取を 50~60 kg とすると、1 日せつ取量は
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h | したがつて、このせつ取量から、牛乳中に出される各核種を計算すると次のようになる。 (1) I131 せつ取した草のI131がミルク中にでる割合は 5 ~ 10% (4)(5) 牛乳分泌 量を 8 ~ 10 l/day とすると、牛乳中渡度は 降下量/m2 × 10 × 1/10 × 1/10 = 降雨量/m2 × 1/10 × l とよく合う。 (2) Sr89,90 せつ取した草 Sr89,90 がミルク中にでる割合を 0.5~1.5% (平 均 1%) (4) とすると、牛乳中 Sr89,90 濃度は 降下量/m2 × 10 × 1/100 × 1/10 = 降雨量/m2 × 1/100 × l (3) Cs137 ミルク中にでる割合を約 10% とする。(4)(5)I131と同じになるから、ミ ルク中濃度は 降雨量/m2 × 1/10 × l mμc/l 牛乳であつた)によく合う。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
i | 以上の各食物における核種濃度の値は被災后の初期における濃度を示すものであつて、 生長による稀釈、雨による洗滌、放射性減衰、乳牛の飼料が冬になるに従つて保存飼料に 置き換わることなどによつて、次第に減少することは当然である。従つて、許容濃度と比 較する場合は、このことを計算に入れて、考察する必要がある。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
j | 原子炉からの放出を全放出、揮発性放出にわけ、それそれの場合におけるSr89,90、 Cs137、I131 の全放射能(放出后 24 時間のときの値)に対する%(前出)から、全 放射能にて 1c/m2 降下したときの各食品中の核種濃度を前述の計算式に従つて表にあら わすと次のようになる。
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II 農地汚染による作物の汚染度の推定
原子炉からの放出物が土壌中に入ると、直接に fission products を浴びた作物
を収獲した後も、半滅期の或る程度以上長いものについては翌年からその土地に生育する作
物に吸収されることになる。そこで、この場合に、各核種について、半滅期、土壌から作物
への分裂生成物の収量、人体への危害の大小などが関係し、I131、Ba140は半滅期の短い
こと、Ru106(0.015)、Y91(0.006)、Ce144(0.004)、Zr95(0.02)
などは土から作物体への Concentratiion factor (カツコ内の数字)が小さく(7) 、
かつそれらを人体がせつ取したときの消化管吸収が極めて悪い(みんな0.05%以下)(8)
ので、Sr89,90、Cs137が農作物について問題となる。
a 農地であるから深さ 30cm くらいまで耕転するものとし、土地に降下した核種はその
深さまで同じように混合されたとする。日本の農地土壌のカルシウム渡度は極めて変異が
多い (0.05 ~ 0.5% dry) が、概して低 Ca 濃度の土地も多い。
そこで、いま低 Ca 土壌として 0.05% (対乾土)の農地を考えると、1 平方メートル
の土地で深さ 30cm までの Ca 量は大たい 150g となる。
そして土から作物への Sr-Ca 差別率は殆ど 1 に近いと考える。
だから、作物中の Sr89,90 / Ca は
対 乾 物 Ca % | 乾 物 1kg 中 Ca g | |
---|---|---|
玄 米 | 0.015 | 0.15 |
白 米 | 0.005 | 0.05 |
麦 | 0.004 | 0.4 |
野菜(乾) | 1 | 10 |
各食物中の Sr89,Sr90 の濃度は後にでてくる表のように求められる。
b Cs137 の土壌から作物への Concentration factor は、やさいにて 0.1 ~
0.15(7) 米麦粒にて 0.02 ~ 0.03(7)(9) とし、平方メートル深さ 30cm の土地の乾土重量
約 300 kg とすると、
野菜 ‥‥‥‥‥‥‥ 降下量/m2 × 1/300 × 0.15 / kg (乾物) 米麦 ‥‥‥‥‥‥‥ 降下量/m2 × 1/300 × 0.03 / kg (乾物)によつて求められ、野菜の場合水分を 90% くらいとして生重量に換算し、全放射能 1C / m2
降下した時の各作物中 Sr89,90、Cs137濃度を表に示す。
μC/kg | Sr89 | Sr90 | Cs137 |
---|---|---|---|
玄 米 | 7.2 | 0.9 | 0.3 |
白 米 | 24 | 3 | |
麦 | 58 | 7 | |
野菜(生) | 140 | 18 | 0.15 |
μC/kg | Sr89 | Sr90 | Cs137 |
---|---|---|---|
玄 米 | 0.45 | 0.06 | 0.18 |
白 米 | 1.5 | 0.2 | |
麦 | 3.6 | 0.46 | |
野 菜 | 9 | 1.1 | 0.1 |
III 土地汚染による牛乳の汚染
牧草、野草の利用又は枯死した後、次のシーズンに生育してくるそれらを飼料として乳牛
がミルクを生産するが、その時の牛乳中の核種については、農地汚染においてのべたと同様
の理由で、Sr89,90、Cs137が問題となる。
a まず、土地は耕さないから Sr89,90は表面から約 6cm くらいまでに大部分が吸着さ
れ移動することは少ない。土壌中 Ca 濃度は農地の場合と同じく少ない値をとつて 30
gCa/m2 - 6cm とし、土→牧草→牛乳の Sr-Ca Discrimination factor
を 0.1 ~ 0.15(10)とすると、牛乳中 Sr89,90/Ca 濃度は
降下量/m2×1/30×0.15/gCaであらわされる。そして牛乳 1l 中 Ca は約 1g 含まれているから、この値はそのまま、
1l 中濃度として使用できる。
b 次に Cs137は士壊への吸着が大きく、表土約 2.5cm くらいまでに保持され、雨などに
よつても動くことは殆どない。(11)m2―2.5cm の乾土は 2.5kg で、したがつて土中 Cs137
濃度は降下量/m2×1/25/kg (乾土)となる。
そして土からら牧草への concentration fuctor は 0.1~0.15 (乾土)
だから牧草中の Cs137濃度は降下量/m2×1/25/kg (乾物)となる。1日せ
つ取量を生草 60kg (乾物にして 6kg )、ミルクへの分泌を 10%、ミルク生産量 10l
/day とすると、ミルク中 Cs137濃度は
降下量/m2×1/25×6×0.1×1/10/lであらわされる。
c そこで、全放射能として 1C/m2降下したときの Sr89,90、Cs137が牛乳中にあら
われる推定値は次の表のようになる。
μC/l | Sr89 | Sr90 | Cs137 |
---|---|---|---|
ミルク | 120 | 15 | 1 |
μC/l | Sr89 | Sr90 | Cs137 |
---|---|---|---|
ミルク | 7.5 | 1 | 0.65 |
IV 淡水食用魚の汚染
淡水域としては河川、湖沼において種々の魚その他が漁獲され食用にされる。その汚染
度は、水中に加えられた放射性核種が水中に稀釈される割合、底土に吸着される割合などで
甚だしく相異し、一概に決めることができない。また河川においては水流が長い地域を通過
するから流域に吸着その他によつて核種の水中濃度は急速に減少する。
そこでいま水深 10m、水中 Ca 濃度 10mg/l(割合に低 Ca 濃度の湖水である)の
湖水を想定し底土に吸着されることによる水中濃度の低下を考想しないでその場合の魚肉
中 Sr89,90、Cs137 を推算してみる。実際には土壌中に相当の部分が吸着されるから、
これより放射性核種の蓄積は少ないし、また魚体と水との間に Sr90 その他の出入が平衡
状態に達するまでに時間を要するから現実の漁獲物はその放射能は少ない。しかし正確な推
算を行うには未だ研究せねばならない幾多の問題があり、また、条件によつて甚だしく相異
するから、今后、この推定値を引下げることは十分可能である。
a | 1 平方メートル当りの降下量に対し水中に完全に混合されたときの濃度は、降下量/m2×1/104 l 又は降下量/m2×1/104×102/g Caとなる。 そこで、水から魚肉への Sr-Ca Discrimination fatcor を 0.4(12)とする 降下量/m2×1/104×102×0.4/g Caとなり、魚肉中 Ca 量を 72mg/100g 生肉(13)とすると、魚肉中 Sr89,90のg当 たりの濃度は 降下量/m2×1/104×102×0.4×0.00072/g Caとなる。 | ||||||||||||||||
b | 水から魚肉への Cs137 の concentration factor を 3,000 (wet basis) とすると(14)、魚肉中 Cs137 濃度は 降下量/m2×1/104×1/103×3,000/g (生肉)となる。 | ||||||||||||||||
c | これらの式に収量の表から Sr89,90、Cs137 の値を用いて全放射能 1C/m2 降下した ときの各核種の魚肉中濃度を計算すると次の表の如くなる。
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V 海洋生物の汚染推定
沿岸に放出物が降下した場合、沿岸海流、潮流その他の海水移動や海域の深度などによつ
て海水の汚染の払がり方や上下混合に非常な差があり、また汚染水塊の拡散、流失などの状
態も生物の汚染に大きく関係し、また回遊性の魚類自体の動きもその汚染度を左右する因子
の 1 つとなつている。ここでは比較的動きにくく、また浅海域に生息して最も汚染を浮け易
いものを選んでそれらの汚染度推定を行つた。しかもこれらの値は放射性核種の up
take が完全に行われ外界と平衡になつた時のものであるから、汚染の最大値を示してお
り、実際に漁獲されるものはそれ以下の値となる場合が多いと考えてよい。殊に一定期間を
週ぎて海水の汚染が稀釈されてくると、魚体中のそれらの濃度も次第に下つてくることは当
然である。
まず、貝類(アサリ、ダマグリ、カキ)養殖場(水深 1m)、のり養殖場(水深 3m)、
褐藻(コンプ、ワカメ)漁場(水深 5m)、沿岸漁場(定置網、釣など)(10m)を想
定する。
Sr89,90Cs137、I131(藻類における濃縮が大きいので特にこれを入れた)が
降下したときの水中濃度は水深に従つて各々容易に算出できない。これに次に示す各生物
の各元素に対する水からの concentration factor (wet basis) をか
けて、生物体中の最大濃度を算出した。用いた concentration factor を次に
示す。ただし貝、魚においての値は可食部即ち肉の部分についての値である。
生物 | 貝類 | のり | 褐藻 | 魚 |
---|---|---|---|---|
Sr | 10(15) | 20(15) | 20(15,17) | 1(15) |
Sc | 10(15) | 11(15) | 1(15) | 10(15,18) |
I | 70(16) | 200(16) | 1,400(16) | 30(16) |
この値を用い、全放射能 1C/m2 降下したときの各生物中の放射性核種の最大濃度は次
のようになる。
μC/g (生肉) | 貝類 | のり | 褐藻 | 魚 |
---|---|---|---|---|
Sr89 | 0.24 | 0.14 | 0.096 | 0.0024 |
Sr90 | 0.03 | 0.018 | 0.012 | 0.0003 |
Cs137 | 0.029 | 0.087 | 0.00058 | 0.0029 |
I131 | 0.98 | 0.84 | 4.2 | 0.042 |
μC/g (生肉) | 貝類 | のり | 褐藻 | 魚 |
---|---|---|---|---|
Sr89 | 0.015 | 0.009 | 0.006 | 0.00015 |
Sr90 | 0.0019 | 0.0011 | 0.00076 | 0.000019 |
Cs137 | 0.018 | 0.00054 | 0.00036 | 0.0018 |
I131 | 3.0 | 2.6 | 13 | 0.13 |
VI 汚染度抑制の為の対策
a | 直接汚染の場合の野菜の水洗効果はすでに計算の中に入つている。ただ、直接汚染の野 |
b | 土地汚染による作物中 Sr90 の摂取については、その土壌が低 Ca 濃度の酸性土壌の |
c | 汚染飼料を乳牛に与えねばならない場合、飼料にカルシウム剤を添加することは牛乳中 |
d | ブルトーザーによる排土により汚染土壌を除去することによつて作物の汚染を防止し得 |
VII 使用制限時間について
a | 土壌中に長寿命の放射性核種が入つて、農業に使用でぎないとき、その使用制限の予想 | ||||||||||||
b | 淡水域、殊に河川にては汚染水塊の流出は短期間に行われその后、生物体中の放射性 ただし湖沼にては水の流出がないか又は少ないので、大きい部分が底土に吸着固定され そこで、数ヵ月から 1 年后、制限を 1 桁又は 2 桁ゆるめることが可能であろう。 | ||||||||||||
c | 沿岸海域は水塊の移動、拡散による稀釈がはやいから、制限期間はかなり少なくてすむ | ||||||||||||
d | 以上のようなことがらから、各地域における制限期間を次のように想定して被害算定を行うことにした。
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VIII 使用制限域の推定
a 各核種のせつ取量
厚生省の栄養調査(19)をもとにして1人1日の各食品せつ取量を定め、これまでの計算値
を用いてその中に期待される核種の量を総計し、種々の場合における全放射能 1C/m2 降
下した時のせつ取量を計算した。
(1) 全放出の場合
イ 事故時しばらくの期間(単位μC)
せつ取源 | 重量 (生g) |
Sr89 | Sr90 | Cs137 | I131 |
---|---|---|---|---|---|
野菜(直接汚染) | 300 | 900 | 110 | 130 | 540 |
牛乳(〃) | 200 | 48 | 8 | 58 | 280 |
沿岸魚 | 30 | 0.07 | 0.009 | 0.09 | 1.3 |
淡水魚 | 10 | 0.7 | 0.1 | 9 | ? |
貝 | 10 | 2.4 | 0.3 | 0.3 | 9.8 |
計(成人) | 951 | 116 | 197 | 831 |
Sr89 | Sr90 | Cs137 | I131 | |
---|---|---|---|---|
新生児(ミルク 200g) | 48 | 6 | 58 | 280 |
6ヶ月(ミルク 800g) | 200 | 24 | 230 | 1,120 |
3才(ミルク 400g野菜150g) | 546 | 67 | 181 | 830 |
10才(ミルク 400g野菜200g) | 696 | 86 | 202 | 920 |
ロ 新米収穫後(単位μC)
せつ取源 | 重量 g | Sr89 | Sr90 | Cs137 |
---|---|---|---|---|
米麦(直接汚染) | 480 | 26 | 3 | 210 |
170(出荷后被災) | 22(同左) | |||
野菜(土地汚染) | 300 | 42 | 5.4 | 0.05 |
牛乳(〃) | 200 | 24 | 3 | 0.2 |
海草 のり | 30 | 4.2 | 0.4 | 2.6 |
褐藻 | 20 | 1.9 | 0.2 | 0.02 |
計(成人) | 98 242(出穂后被災) |
12 31(同左) |
213 |
ハ 翌年産米収穫後(μC)
せつ取源 | 重量 g | Sr89 | Sr90 | Cs137 |
---|---|---|---|---|
米 麦 白米 | 380 | 2.7 | 0.34 | 0.1 |
(土地汚染) 麦 | 100 | 5.8 | 0.7 | 0.03 |
野菜(土地汚染) | 300 | 42 | 5.4 | 0.05 |
牛乳(土地汚染) | 200 | 24 | 3 | 0.2 |
計 | 75 | 9.4 | 0.38 |
(2) 揮発性放出
イ 事故時しばらくの期間(μC)
せつ取源 | 重量g | Sr89 | Sr90 | Cs137 | I131 |
---|---|---|---|---|---|
野菜(直接汚染) | 300 | 60 | 7.2 | 81 | 1,620 |
牛乳乳(〃) | 200 | 3 | 0.4 | 36 | 860 |
沿岸魚 | 0.005 | 0.0006 | 0.05 | 4 | |
淡水魚 | 0.044 | 0.005 | 5.4 | ? | |
貝 | 0.15 | 0.019 | 0.18 | 30 | |
計 (成人) | 63 | 7.6 | 123 | 2,500 | 新生児(ミルク200) | 3 | 0.4 | 36 | 860 |
6ヶ月(ミルク800) | 12 | 1.6 | 144 | 3,440 | |
3才(ミルク400、野菜150) | 36 | 4.4 | 113 | 2,530 | |
10才(ミルク400、野菜200) | 46 | 5.6 | 126 | 2,800 |
ロ 新米収穫後(μC)
せつ取源 | 重量 g | Sr89 | Sr90 | Cs137 |
---|---|---|---|---|
米 麦(直接汚染) | 480 | 1.4 | 0.2 | 130 |
11(出穂后被災) | 1.3(同左) | 0.03 | ||
野菜(土地汚染) | 300 | 2.7 | 0.3 | 0.03 |
牛乳(〃) | 200 | 1.5 | 0.2 | 0.13 |
海草 のり | 30 | 0.27 | 0.03 | 0.016 |
褐藻 | 20 | 0.12 | 0.015 | 0.007 |
計 | 6 15.6(出穂后被災) |
0.75 1.8(同左) |
130 |
ハ 翌年産米収穫後(μC)
せつ取源 | 重量 g | Sr89 | Sr90 | Cs137 |
---|---|---|---|---|
米 麦 白米 | 380 | 0.17 | 0.023 | 0.068 |
(土地汚染) 麦 | 100 | 0.1 | 0.02 | 0.018 |
野菜(土地汚染) | 300 | 2.7 | 0.3 | 0.03 |
牛乳(土地汚染) | 200 | 1.5 | 0.2 | 0.13 |
計 | 4.5 | 0.54 | 0.25 |
b 食品せつ取による被曝量の推定
体内に蓄積される核積の状況は大たい前節のようになり、全放出の場合は Sr90 が、
揮発性放出の場合は幼若児における I131 が最も重要な曝射を与えるものと考えられる。
そこで、全放出の場合、Sr90 による骨線量を年間 1.5rad におさえたとき、Cs137
による全身線量、I131 による甲状腺線量、Sr89 による骨線量を計算して表に示す。
ただしその計算は次の想定にもとずく。(20)
(1) | 1 人 1 日 Ca せつ取量を 0.5g、食物から人骨への Discrimination factor を 0.5 とする。そこで 1 日 0.5mμC Sr90 をせつ取すると人骨内でほ 500スト ロンチウム、ユニットとなり、これによる線量率は年間 1.5rad 以下である。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||
(2) | Sr89 は decay を計算に入れ初期 1 日 50mμc にて総線量は 15rad 以下となる。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||
(3) | Cs137 は全身線量に関係するので、新生児体重 3.7kg、6ヵ月児 8.8kg、成人 7 0kg とし人体内半滅期を140日、食品の Cs137 濃度滅少を 70 日半減期として、 総線量全身 10rad 以下にするには、新生児で初期 1 日せつ取量 60mμc、6ヵ月 児で 150mμc、 成人で 1150mμcでおさえればよい。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||
(4) | 食品中 Cs137 の減少を考慮に入れたのは、Cs137 が直接汚染のとき高く、土地 汚染による作物中への蓄積が極めて悪いことを考えた上である。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||
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(5) | 6ヶ月児の甲状腺 1.8g、3才で 3~4g、10才で 9.2g、成人で 25g とし、半 減期を考慮すると、初期 1 日せつ取量が 6ヶ月児で 60mμc、10才で 300mμc、 20才以上で 1,300mμc ならば甲状腺に与える総線量は 25rad を越えないとする。 |
次に揮発性放出の場合、6ヶ月児の甲状腺に与える総線量を 25rad におさえると、
全放出のときと同様、他の線量は次の表のようになる。
骨に与える線量 | 全身 | 甲状腺 | |||
---|---|---|---|---|---|
Sr89 | Sr90 | Cs137 | I131 | ||
0.33rad (総線量) |
0.40rad (年間) |
0.0018rad | (成人) | 0.85rad | (成人) |
0.17 | (6ヶ月児) | 4.0 | (10才) | ||
0.10 | (新生児) | 10 | (3才) | ||
(総線量) | 25 | (6ヶ月) | |||
(総線量) |
これらのときの降下量は全放射能で
全放出の場合 ‥‥‥‥‥‥ 0.5/116 × 103 = 4.3 × 10-6 C/m2 揮発性放出の場合 ‥‥‥‥ 60/3440 × 103 = 1.7 × 10-5 C/m2に相当することになる。
c 各地域の使用制限の推定
事故時における人体及びその器官に与える放射線量がどの程度まで許容され得るかにつ
ついては、未だ多くの研究の余地が残されているが、いま次の値を基準として、(19)食品別
に使用制限を推算する。
骨に与える線量 | 全身 | 甲状腺 | ||
---|---|---|---|---|
Sr89 | Sr90 | Cs137 | I131 | |
15rad | 1.5rad | 10rad | 75rad (成人) 25rad (幼児) |
|
総線量 | 年間線量 | 総線量 | 総線量 |
(1) 全放出の場合
前節の表に示した様に 4.3 × 10-6 C/m2 の降下量にて Sr90 による骨線量は
年間 1.5rad となり、Sr89、Cs137、I131 の線量はそれぞれの基準値に比
べて相当低いから、これを制限範囲にとることができる。そして、Sr90 せつ取量の
小さい品目についてはその濃度の範囲を上げることができる。
即ち、イ表では、沿岸魚で 102、淡水魚及び貝にて 10 をかけることが可能である。
又、ロ表では出穂后被災の米麦を除き全部 10 を、ハ表では全品目に 10 をかけること
ができる。
(2) 揮発性放出の場合
同じようにして、3才児の甲状腺線量を 25rad におきえるのに降下量を 1.7×10-5 C/m2
に制限すると、他の核種による各線量は相当低いからこれを範囲とし、
せつ取量の低いものについて制限範囲をゆるめると、各品目について全放出のときと全
く同じように倍数をかけることができる。
以上をまとめて各食品とその生産場の使用制限範囲とその期間を一括して示す。
全放出の場合 | C/m2 | 期間 | ||
---|---|---|---|---|
作 物 補 償 |
米 麦 | 出穂前被災 | 4×10-5 | 棄却 |
出穂後被災 | 4×10-6 | 〃 | ||
野 菜 | 4×10-6 | 〃 | ||
牛 乳 | 4×10-6 | 〃 | ||
土 地 使 用 補 償 |
水田、麦畑 | 4×10-5 | 10年 | |
野 菜 畑 | 〃 | 〃 | ||
牧 場 | 〃 | 〃 | ||
淡水漁場 | 〃 | 河川3ヶ月 湖沼 1 年 | ||
沿岸漁場 | 貝養殖場 | 〃 | 3ヶ月 | |
のり養殖場 | 〃 | 〃 | ||
海藻養殖場 | 〃 | 〃 | ||
沿岸漁業場 | 6×10-3 | 〃 |
揮発性放出の場合 | C/m2 | 期間 | ||
---|---|---|---|---|
作 物 補 償 |
米 麦 | 出穂前被災 | 6×10-4 | 棄 却 |
出穂後被災 | 6×10-5 | 〃 | ||
野 菜 | 6×10-5 | 〃 | ||
牛 乳 | 2×10-5 | 保 存 | ||
6×10-5 | 棄 却 | |||
土 地 使 用 補 償 |
水田、麦畑 | 6×10-4 | 10年 | |
野 菜 畑 | 〃 | 〃 | ||
牧 場 | 〃 | 〃 | ||
淡水漁場 | 〃 | 河川 3ヶ月 湖沼 1 年 | ||
沿岸漁場 | 貝養殖場 | 〃 | 3ヶ月 | |
のり養殖場 | 〃 | 〃 | ||
海藻養殖場 | 〃 | 〃 | ||
沿岸漁業場 | 6×10-3 | 〃 |
引用文献
(1) 農林省統計表 (2) NISHITA et al. (1957) UCLA Rep.401 (3) MIDDLETON (1958) Nature 181. p.1300 (4) COMAR et al. (1956) Progress in Nuclear Energy,Siries VI, Biol. Sci.vol. 1. (5) FAO (1959) Radioactive materials in food and agriculture. FAO/59/12/9811 (6) DUNSTER, H.J. et al. (1958) 2nd Geneva Rep. vol. 18. p.296 (7) REDISKE et al. (1956) 1st Geneba Rep. (8) HAMILTON.J.G. (1948) Rev. Mod. Phys. vol 20,NO.4 (9) 三井進午他 (1959) (10) COMAR. C.L. et al (1958) Sr-Ca movement from soil to man. Science 126. 485 (11) CHRISTENSEN, C.W. et al (1958) 3rd Nuclear Engineerign and Science Conference, Chicago (12) ICHIKAWA (1960) Rec. Oceanogr. W. in Japna. (13) 食品成分表 (14) PENDLETON et al (1958) 2nd Geneva Rep. vol. 18. p.419 (15) KRUMHOLZ, L.A. et al (1957) The effects of atomic radiation on oceanography and fisheries (16) 大島幸吉 (1950) 水産動物化学 (17) VINOGRADOV, A.P. (1953) Sears foundation for marine research memoir II, Yale Univ (18) CHIPMAN, W.A. (1956) Progress rep. 1956. U.S. Fish & Wildlife Series, Beaufort,N.C. (19) 厚生省 国民栄養の現状 (20) MRC Rept. (1959) Brit. Med. J. April, 1959
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