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「大型原子炉の事故の理論的可能性及び公衆損害額に関する試算」 附録 (E)

附録 (E)

放出放射能の農漁業への影響

I 直接汚染による汚染度の推定

原子炉事故が起つた際、農地に生育中の作物は直接その放出物を受けるが、その程度は
作物の生育のステージ、耕地上の作物の密度、作物の種類、形態によつて相異する。
そこで、大ざつばな推算を行うには、次のように種々の想定を用いて食用部分への各核
種の蓄積量を求める。

a放出物の降下量の 1/2 が食用植物に附着するものとする。
b葉菜類の収穫量を 2Kg/n2 (1)とし、水洗効果を 50% (2)とすれば、各核種が野菜に
蓄積される量は

降下量/m2 × 1/2 × 1/2 × 4/2 /Kg(生野菜)となる。

根菜類(いも、大根、ごほう)では食用部分が葉部でないからこれよりかなり小さくなる
筈である。又、豆類にてもその可食部は 1 部であり、また「さや」を食用としないもので
は更に小さくなる。しかも、子実部がまだできないうちに被災した場合はより以上その蓄
は小さい。
c米麦類では出穂期前こ被つたとき、附着したSr89,90の 0.05% 以下、Cs137
の 10% が米麦粒中に入り、出穂後に被つたときは、Sr89,90の 1%、Cs137
10% が入るものとする。(3)

また、被災のときにと幼若なステージにあれが、収獲期までの雨による水洗効果、成長
による稀釈があるからかなり小さくなる筈である。

dしたがつて、米麦収量を 0.3Kg/m2(1)とすると、

出穂期前被災のとき  Sr89.90→1/2 × 0.05/100 × 3 = 降下量 /m2×10-3/kg
Cs137→1/2 × 10/100 × 3 = 〃×10-1/kg
出穂期後被災のとき  Sr89.90→1/2 × 1/100 × 3 = 〃×10-2/kg
Cs137→1/2 × 10/100 × 3 = 〃×10-1/kg
によつて含有量が推定される。

ただしこれは玄米麦の場合であつて、精白部はこれより低くなるが、その値は被災の
時期にも関係し正確な推算ができない。また、直接汚染と共に土壌中に降下した核種が
吸収されて米麦粒中のものにプラスされるが、Cs137では土壌からの吸収率が低いので、
直接汚染によるものと比較して無視できる。Sr89.90の場合はかなりの程度プラスさ
ることがあるが、被災の時から収獲までの期間の長短によつて非常に相異する。

そこで、米麦の場合の出穂後被災のとき、野菜の場合では土壌からの吸収によるものを
無視できるとし(それらの蓄積量表からみて)、出穂前被災の場合にては、Sr89、Sr90
の値を 3 倍する。(上表中の×3はその意味)。

eI131については米麦にては保存するから問題からはずし、野菜についてはSr、Csと
同様な考慮から降下量/m2×1/2×1/2×1/2 /kg とする。
f被災地域の牛乳中にあらわれる核種は乳牛が被災時にそれらを吸入することと、汚染さ
れた食物をせつ取することによつて生ずるが、前者は短期間に限られ後者は持続される
ので、或程度以上長い半減期をもつものについては吸入のえいきようは無視できる。また、
I131(半減期 8 日)についても、その消化管吸収率が非常によいので、相対的に食物
からのせつ取が主たるものと考えて計算できる。

また。乳牛の飼料は欧米と異なり、北海道のようによく牧草地の発達した地域をのぞく
と、非常に種々雑多である。種類を大別して牧草、野草、青刈作物(末成熟の作物のこと、
トーモロコシ、カプ、エンバク、サツマイモのツルなど)があり、これらの混合割合は甚
だしく相異する。また濃厚飼料(フスマ、ヌカ、大豆、ワラなど)を使用していることも
ある。

このように飼料の変化が大きいので一概に計算できないが、汚染の最も考えられる牧草、
野草食の場合を算定しておけば被害はいずれの場合もこのうちに含まれ得るであろう。

g 大ざつぱに、生育密度を野草 0.6 Kg/m2、牧草 4kg /m2とし、野草地における降下
物の附着率を 1/8 牧草地のそれを殆ど 1 に近いとする。ただしこれは降下時のことで、
気象状態によつて時間の経過と共に洗らわれて地中に入ることは当然である。
成牛 1 日の生草せつ取を 50~60 kg とすると、1 日せつ取量は

(野草)降下量/m2× 1/8 × 60/0.6 降下量 / m210/day
(牧草)降下量/m2× 1 × 60/4
となる。
h したがつて、このせつ取量から、牛乳中に出される各核種を計算すると次のようになる。


(1) I131 せつ取した草のI131がミルク中にでる割合は 5 ~ 10% (4)(5) 牛乳分泌
量を 8 ~ 10 l/day とすると、牛乳中渡度は

降下量/m2 × 10 × 1/10 × 1/10 = 降雨量/m2 × 1/10 × l

となる。これは Windscale の経験(6)( 1 μI 131C/m2 の牧章にて 0.01μ c/l 牛乳)
とよく合う。


(2) Sr89,90 せつ取した草 Sr89,90 がミルク中にでる割合を 0.5~1.5% (平
均 1%) (4) とすると、牛乳中 Sr89,90 濃度は

降下量/m2 × 10 × 1/100 × 1/10 = 降雨量/m2 × 1/100 × l

となる。


(3) Cs137 ミルク中にでる割合を約 10% とする。(4)(5)I131と同じになるから、ミ
ルク中濃度は

降雨量/m2 × 1/10 × l

'となる。この値は Windscale の経験 (100mμcCs137/m2の牧場にて 10
mμc/l 牛乳であつた)によく合う。
i
以上の各食物における核種濃度の値は被災后の初期における濃度を示すものであつて、
生長による稀釈、雨による洗滌、放射性減衰、乳牛の飼料が冬になるに従つて保存飼料に
置き換わることなどによつて、次第に減少することは当然である。従つて、許容濃度と比
較する場合は、このことを計算に入れて、考察する必要がある。
j
原子炉からの放出を全放出、揮発性放出にわけ、それそれの場合におけるSr89,90
Cs137、I131 の全放射能(放出后 24 時間のときの値)に対する%(前出)から、全
放射能にて 1c/m2 降下したときの各食品中の核種濃度を前述の計算式に従つて表にあら
わすと次のようになる。

(2)全放出の場合
μC / kg Sr89 Sr90 Cs137 I131
米 麦 (出穂前) 18×3=54 2×3=6 440 -
米 麦 (出穂後) 360 45 440 -
野 菜 (生) 3,000 380 440 1,800
牛 乳 240 30 290 1,400
(2)揮発性放出の場合
μC / kg Sr89 Sr90 Cs137 I131
米 麦 (出穂前) 1×3=3 0.14×3=0.42 270 -
米 麦 (出穂後) 23 28 270 -
野 菜 (生) 200 24 270 5,400
牛 乳 15 2 180 4,300

II 農地汚染による作物の汚染度の推定

原子炉からの放出物が土壌中に入ると、直接に fission products を浴びた作物
を収獲した後も、半滅期の或る程度以上長いものについては翌年からその土地に生育する作
物に吸収されることになる。そこで、この場合に、各核種について、半滅期、土壌から作物
への分裂生成物の収量、人体への危害の大小などが関係し、I131、Ba140は半滅期の短い
こと、Ru106(0.015)、Y91(0.006)、Ce144(0.004)、Zr95(0.02)
などは土から作物体への Concentratiion factor (カツコ内の数字)が小さく(7)
かつそれらを人体がせつ取したときの消化管吸収が極めて悪い(みんな0.05%以下)(8)
ので、Sr89,90、Cs137が農作物について問題となる。

a 農地であるから深さ 30cm くらいまで耕転するものとし、土地に降下した核種はその
深さまで同じように混合されたとする。日本の農地土壌のカルシウム渡度は極めて変異が
多い (0.05 ~ 0.5% dry) が、概して低 Ca 濃度の土地も多い。

そこで、いま低 Ca 土壌として 0.05% (対乾土)の農地を考えると、1 平方メートル
の土地で深さ 30cm までの Ca 量は大たい 150g となる。

そして土から作物への Sr-Ca 差別率は殆ど 1 に近いと考える。

だから、作物中の Sr89,90 / Ca は

Sr89,90降下量 / m2 × × 1/150
となる。そして作物中 Ca 濃度として次の値をとると


対 乾 物 Ca %乾 物 1kg 中 Ca g
玄 米0.0150.15
白 米0.0050.05
0.0040.4
野菜(乾)110

各食物中の Sr89,Sr90 の濃度は後にでてくる表のように求められる。

b Cs137 の土壌から作物への Concentration factor は、やさいにて 0.1 ~
0.15(7) 米麦粒にて 0.02 ~ 0.03(7)(9) とし、平方メートル深さ 30cm の土地の乾土重量
約 300 kg とすると、

野菜 ‥‥‥‥‥‥‥ 降下量/m2 × 1/300 × 0.15 / kg (乾物)
             米麦 ‥‥‥‥‥‥‥ 降下量/m2 × 1/300 × 0.03 / kg (乾物)
によつて求められ、野菜の場合水分を 90% くらいとして生重量に換算し、全放射能 1C / m2
降下した時の各作物中 Sr89,90、Cs137濃度を表に示す。

(1)全放出の場合
μC/kgSr89Sr90Cs137
玄 米7.20.90.3
白 米243
587
野菜(生)140180.15
(2)揮発性放出
μC/kgSr89Sr90Cs137
玄 米0.450.060.18
白 米1.50.2
3.60.46
野 菜91.10.1

III 土地汚染による牛乳の汚染

牧草、野草の利用又は枯死した後、次のシーズンに生育してくるそれらを飼料として乳牛
がミルクを生産するが、その時の牛乳中の核種については、農地汚染においてのべたと同様
の理由で、Sr89,90、Cs137が問題となる。

a まず、土地は耕さないから Sr89,90は表面から約 6cm くらいまでに大部分が吸着さ
れ移動することは少ない。土壌中 Ca 濃度は農地の場合と同じく少ない値をとつて 30
gCa/m2 - 6cm とし、土→牧草→牛乳の Sr-Ca Discrimination factor
を 0.1 ~ 0.15(10)とすると、牛乳中 Sr89,90/Ca 濃度は

降下量/m2×1/30×0.15/gCa
であらわされる。そして牛乳 1l 中 Ca は約 1g 含まれているから、この値はそのまま、
1l 中濃度として使用できる。

b 次に Cs137は士壊への吸着が大きく、表土約 2.5cm くらいまでに保持され、雨などに
よつても動くことは殆どない。(11)m2―2.5cm の乾土は 2.5kg で、したがつて土中 Cs137
濃度は降下量/m2×1/25/kg (乾土)となる。

そして土からら牧草への concentration fuctor は 0.1~0.15 (乾土)
だから牧草中の Cs137濃度は降下量/m2×1/25/kg (乾物)となる。1日せ
つ取量を生草 60kg (乾物にして 6kg )、ミルクへの分泌を 10%、ミルク生産量 10l
/day とすると、ミルク中 Cs137濃度は

降下量/m2×1/25×6×0.1×1/10/l
であらわされる。

c そこで、全放射能として 1C/m2降下したときの Sr89,90、Cs137が牛乳中にあら
われる推定値は次の表のようになる。

(1)全放出の場合
μC/lSr89Sr90Cs137
ミルク 120 15 1
(2)揮発性放出の場合
μC/lSr89Sr90Cs137
ミルク 7.5 1 0.65

IV 淡水食用魚の汚染

淡水域としては河川、湖沼において種々の魚その他が漁獲され食用にされる。その汚染
度は、水中に加えられた放射性核種が水中に稀釈される割合、底土に吸着される割合などで
甚だしく相異し、一概に決めることができない。また河川においては水流が長い地域を通過
するから流域に吸着その他によつて核種の水中濃度は急速に減少する。

そこでいま水深 10m、水中 Ca 濃度 10mg/l(割合に低 Ca 濃度の湖水である)の
湖水を想定し底土に吸着されることによる水中濃度の低下を考想しないでその場合の魚肉
中 Sr89,90、Cs137 を推算してみる。実際には土壌中に相当の部分が吸着されるから、
これより放射性核種の蓄積は少ないし、また魚体と水との間に Sr90 その他の出入が平衡
状態に達するまでに時間を要するから現実の漁獲物はその放射能は少ない。しかし正確な推
算を行うには未だ研究せねばならない幾多の問題があり、また、条件によつて甚だしく相異
するから、今后、この推定値を引下げることは十分可能である。

a 1 平方メートル当りの降下量に対し水中に完全に混合されたときの濃度は、
 降下量/m2×1/104 l
又は降下量/m2×1/104×102/g Ca
となる。

そこで、水から魚肉への Sr-Ca Discrimination fatcor を 0.4(12)とする
と、魚肉中 Sr89,90 濃度は

降下量/m2×1/104×102×0.4/g Ca
となり、魚肉中 Ca 量を 72mg/100g 生肉(13)とすると、魚肉中 Sr89,90のg当
たりの濃度は
降下量/m2×1/104×102×0.4×0.00072/g Ca
となる。
b 水から魚肉への Cs137 の concentration factor を 3,000 (wet basis)
とすると(14)、魚肉中 Cs137 濃度は
降下量/m2×1/104×1/103×3,000/g (生肉)
となる。
c これらの式に収量の表から Sr89,90、Cs137 の値を用いて全放射能 1C/m2 降下した
ときの各核種の魚肉中濃度を計算すると次の表の如くなる。



(1)全放出の場合
μC/lSr89Sr90Cs137
生 肉 0.07 0.0087 0.87
(2)揮発性放出の場合
μC/lSr89Sr90Cs137
生 肉 0.0044 0.00055 0.54

V 海洋生物の汚染推定

沿岸に放出物が降下した場合、沿岸海流、潮流その他の海水移動や海域の深度などによつ
て海水の汚染の払がり方や上下混合に非常な差があり、また汚染水塊の拡散、流失などの状
態も生物の汚染に大きく関係し、また回遊性の魚類自体の動きもその汚染度を左右する因子
の 1 つとなつている。ここでは比較的動きにくく、また浅海域に生息して最も汚染を浮け易
いものを選んでそれらの汚染度推定を行つた。しかもこれらの値は放射性核種の up
take が完全に行われ外界と平衡になつた時のものであるから、汚染の最大値を示してお
り、実際に漁獲されるものはそれ以下の値となる場合が多いと考えてよい。殊に一定期間を
週ぎて海水の汚染が稀釈されてくると、魚体中のそれらの濃度も次第に下つてくることは当
然である。

a

まず、貝類(アサリ、ダマグリ、カキ)養殖場(水深 1m)、のり養殖場(水深 3m)、
褐藻(コンプ、ワカメ)漁場(水深 5m)、沿岸漁場(定置網、釣など)(10m)を想
定する。

Sr89,90Cs137、I131(藻類における濃縮が大きいので特にこれを入れた)が
降下したときの水中濃度は水深に従つて各々容易に算出できない。これに次に示す各生物
の各元素に対する水からの concentration factor (wet basis) をか
けて、生物体中の最大濃度を算出した。用いた concentration factor を次に
示す。ただし貝、魚においての値は可食部即ち肉の部分についての値である。

生物貝類のり褐藻
Sr 10(15) 20(15) 20(15,17) 1(15)
Sc 10(15) 11(15) 1(15) 10(15,18)
I 70(16) 200(16) 1,400(16) 30(16)
b

この値を用い、全放射能 1C/m2 降下したときの各生物中の放射性核種の最大濃度は次
のようになる。

(1)全放出の場合
μC/g
(生肉)
貝類のり褐藻
Sr89 0.24 0.14 0.096 0.0024
Sr90 0.03 0.018 0.012 0.0003
Cs137 0.029 0.087 0.00058 0.0029
I131 0.98 0.84 4.2 0.042
(2)揮発性放出の場合
μC/g
(生肉)
貝類のり褐藻
Sr89 0.015 0.009 0.006 0.00015
Sr90 0.0019 0.0011 0.00076 0.000019
Cs137 0.018 0.00054 0.00036 0.0018
I131 3.0 2.6 13 0.13




VI 汚染度抑制の為の対策


a

直接汚染の場合の野菜の水洗効果はすでに計算の中に入つている。ただ、直接汚染の野
草、牧草を乳牛に与えるとき、放牧式でなく、刈取つた餌料として与える場合、水洗を行
うことによつて、牛乳中の I131 その他を半減させ得る。また、被災時には一切の生草
を止め、保存飼料を用いることによつて牛乳の汚染を防止し得る。

b

土地汚染による作物中 Sr90 の摂取については、その土壌が低 Ca 濃度の酸性土壌の
場合、石灰の投与によつて作物中 Sr90 濃度を低下し得る。土壌の塩基置換容量(30
~40 meq/100g)に対し、150gCa/m2-30m(0.05% dry)の土壌は Ca
がその 10% を占めるくらいであるから、Na、Mg などを考慮しなければ最大 1/l0 ま
で土壌中の Sr90/Ca を下げることができる。ただし、実際には地のイオソが存在する
し、また塩基置換容量自体が小さい場合もよくあるので大ざつばにいつて 1/2 ~ 1/5
ていどが精々であろう。

c

汚染飼料を乳牛に与えねばならない場合、飼料にカルシウム剤を添加することは牛乳中
Sr90の濃度を低下し得る。

d

ブルトーザーによる排土により汚染土壌を除去することによつて作物の汚染を防止し得
る。この場合、Sr90 については表面から7cm、Cs137 については 3cm くらいに保
持されているから、この 1.5~2 倍くらいの深さに排土するのが適当であろう。

VII 使用制限時間について


a

土壌中に長寿命の放射性核種が入つて、農業に使用でぎないとき、その使用制限の予想
される期間としては、Sr90、Cs137 の場合、排土を行わなければ、非常な長期間に
亘ると考えられる。ただ、耕地において、石灰投与を行つてもそれが次第に下層に流失す
る現象がみられるので、それに伴つて少良の Sr90 も移動流失することが考えられる。
また、長期間の経過後には置換性 Sr90 も僅かずつ土壌粒子中に固定化され、植物に利
用されない形に変化することも考え得られる。そこで研究の進展に伴つて、制限期間を短
縮することが可能となるであろうとは考えられる。

b

淡水域、殊に河川にては汚染水塊の流出は短期間に行われその后、生物体中の放射性
核種も次第に失われるから、制限期間は数ヵ月から 1年をとれば殆ど大丈夫と考えられる。


ただし湖沼にては水の流出がないか又は少ないので、大きい部分が底土に吸着固定され
た後はかなり長期間に亘つて汚染が残ると考えられる。しかし ここで推算した魚体中濃
度は放射性核種が底土に移行することによつて恐らくは 1/10 ~ 1/100 ある場合にはそ
れ以下に低下することが期待される。


そこで、数ヵ月から 1 年后、制限を 1 桁又は 2 桁ゆるめることが可能であろう。

c

沿岸海域は水塊の移動、拡散による稀釈がはやいから、制限期間はかなり少なくてすむ
であろうが、個々のケースによつて甚だしく差があるので一概に決められないが、この場
合の被害算定には 3 ヵ月をとれば大きな誤りはあるまいと考えられる。

d

以上のようなことがらから、各地域における制限期間を次のように想定して被害算定を行うことにした。

制限期間
耕  地10年以上
牧  場10年以上
河  川3ヶ月
湖  沼1年
沿岸漁場3ヶ月

VIII 使用制限域の推定

a 各核種のせつ取量

厚生省の栄養調査(19)をもとにして1人1日の各食品せつ取量を定め、これまでの計算値
を用いてその中に期待される核種の量を総計し、種々の場合における全放射能 1C/m2
下した時のせつ取量を計算した。


(1) 全放出の場合

イ 事故時しばらくの期間(単位μC)
せつ取源 重量
(生g)
Sr89 Sr90 Cs137 I131
野菜(直接汚染) 300 900 110 130 540
牛乳(〃) 200 48 8 58 280
沿岸魚 30 0.07 0.009 0.09 1.3
淡水魚 10 0.7 0.1 9 ?
10 2.4 0.3 0.3 9.8
計(成人)   951 116 197 831

Sr89 Sr90 Cs137 I131
新生児(ミルク 200g) 48 6 58 280
6ヶ月(ミルク 800g) 200 24 230 1,120
3才(ミルク 400g野菜150g) 546 67 181 830
10才(ミルク 400g野菜200g) 696 86 202 920

ロ 新米収穫後(単位μC)
せつ取源 重量 g Sr89 Sr90 Cs137
米麦(直接汚染) 480 26 3 210
    170(出荷后被災) 22(同左)
野菜(土地汚染) 300 42 5.4 0.05
牛乳(〃) 200 24 3 0.2
海草 のり 30 4.2 0.4 2.6
   褐藻 20 1.9 0.2 0.02
計(成人) 98
242(出穂后被災)
12
31(同左)
213

ハ 翌年産米収穫後(μC)
せつ取源 重量 g Sr89 Sr90 Cs137
米 麦    白米 380 2.7 0.34 0.1
(土地汚染) 麦 100 5.8 0.7 0.03
野菜(土地汚染) 300 42 5.4 0.05
牛乳(土地汚染) 200 24 3 0.2
75 9.4 0.38

(2) 揮発性放出

イ 事故時しばらくの期間(μC)

せつ取源 重量g Sr89 Sr90 Cs137 I131
野菜(直接汚染) 300 60 7.2 81 1,620
牛乳乳(〃) 200 3 0.4 36 860
沿岸魚 0.005 0.0006 0.05 4
淡水魚 0.044 0.005 5.4 ?
0.15 0.019 0.18 30
計 (成人) 63 7.6 123 2,500
新生児(ミルク200) 3 0.4 36 860
6ヶ月(ミルク800) 12 1.6 144 3,440
3才(ミルク400、野菜150) 36 4.4 113 2,530
10才(ミルク400、野菜200) 46 5.6 126 2,800

ロ 新米収穫後(μC)
せつ取源 重量 g Sr89 Sr90 Cs137
米 麦(直接汚染) 480 1.4 0.2 130
    11(出穂后被災) 1.3(同左) 0.03
野菜(土地汚染) 300 2.7 0.3 0.03
牛乳(〃) 200 1.5 0.2 0.13
海草 のり 30 0.27 0.03 0.016
   褐藻 20 0.12 0.015 0.007
  6
15.6(出穂后被災)
0.75
1.8(同左)
130

ハ 翌年産米収穫後(μC)
せつ取源 重量 g Sr89 Sr90 Cs137
米 麦    白米 380 0.17 0.023 0.068
(土地汚染) 麦 100 0.1 0.02 0.018
野菜(土地汚染) 300 2.7 0.3 0.03
牛乳(土地汚染) 200 1.5 0.2 0.13
4.5 0.54 0.25

b 食品せつ取による被曝量の推定

体内に蓄積される核積の状況は大たい前節のようになり、全放出の場合は Sr90 が、
揮発性放出の場合は幼若児における I131 が最も重要な曝射を与えるものと考えられる。


そこで、全放出の場合、Sr90 による骨線量を年間 1.5rad におさえたとき、Cs137
による全身線量、I131 による甲状腺線量、Sr89 による骨線量を計算して表に示す。
ただしその計算は次の想定にもとずく。(20)


(1) 
1 人 1 日 Ca せつ取量を 0.5g、食物から人骨への Discrimination factor
を 0.5 とする。そこで 1 日 0.5mμC Sr90 をせつ取すると人骨内でほ 500スト
ロンチウム、ユニットとなり、これによる線量率は年間 1.5rad 以下である。
(2)  Sr89 は decay を計算に入れ初期 1 日 50mμc にて総線量は 15rad
以下となる。
(3)  Cs137 は全身線量に関係するので、新生児体重 3.7kg、6ヵ月児 8.8kg、成人 7
0kg とし人体内半滅期を140日、食品の Cs137 濃度滅少を 70 日半減期として、
総線量全身 10rad 以下にするには、新生児で初期 1 日せつ取量 60mμc、6ヵ月
児で 150mμc、 成人で 1150mμcでおさえればよい。
(4)  食品中 Cs137 の減少を考慮に入れたのは、Cs137 が直接汚染のとき高く、土地
汚染による作物中への蓄積が極めて悪いことを考えた上である。

骨に与える線量全身 
Sr89Sr90Cs137
1.2rad
(総線量)
1.5rad
(年間)
0.01rad (成人) 0.07rad (成人)
0.07 (6ヶ月児) 0.3 (10才)
0.17 (新生児) 0.8 (3才)
(総線量) 2.0 (6ヶ月)
(5) 
6ヶ月児の甲状腺 1.8g、3才で 3~4g、10才で 9.2g、成人で 25g とし、半
減期を考慮すると、初期 1 日せつ取量が 6ヶ月児で 60mμc、10才で 300mμc、
20才以上で 1,300mμc ならば甲状腺に与える総線量は 25rad を越えないとする。

次に揮発性放出の場合、6ヶ月児の甲状腺に与える総線量を 25rad におさえると、
全放出のときと同様、他の線量は次の表のようになる。




骨に与える線量全身甲状腺
Sr89Sr90Cs137I131
0.33rad
(総線量)
0.40rad
(年間)
0.0018rad (成人) 0.85rad (成人)
0.17 (6ヶ月児) 4.0 (10才)
0.10 (新生児) 10 (3才)
(総線量) 25 (6ヶ月)
(総線量)

これらのときの降下量は全放射能で

 全放出の場合 ‥‥‥‥‥‥ 0.5/116 × 103 = 4.3 × 10-6 C/m2
 揮発性放出の場合 ‥‥‥‥ 60/3440 × 103 = 1.7 × 10-5 C/m2
に相当することになる。


c 各地域の使用制限の推定

事故時における人体及びその器官に与える放射線量がどの程度まで許容され得るかにつ
ついては、未だ多くの研究の余地が残されているが、いま次の値を基準として、(19)食品別
に使用制限を推算する。

骨に与える線量全身甲状腺
Sr89Sr90Cs137I131
15rad 1.5rad 10rad 75rad (成人)
25rad (幼児)
総線量 年間線量 総線量 総線量

(1) 全放出の場合

前節の表に示した様に 4.3 × 10-6 C/m2 の降下量にて Sr90 による骨線量は
年間 1.5rad となり、Sr89、Cs137、I131 の線量はそれぞれの基準値に比
べて相当低いから、これを制限範囲にとることができる。そして、Sr90 せつ取量の
小さい品目についてはその濃度の範囲を上げることができる。

即ち、イ表では、沿岸魚で 102、淡水魚及び貝にて 10 をかけることが可能である。
又、ロ表では出穂后被災の米麦を除き全部 10 を、ハ表では全品目に 10 をかけること
ができる。


(2) 揮発性放出の場合

同じようにして、3才児の甲状腺線量を 25rad におきえるのに降下量を 1.7×10-5 C/m2
に制限すると、他の核種による各線量は相当低いからこれを範囲とし、
せつ取量の低いものについて制限範囲をゆるめると、各品目について全放出のときと全
く同じように倍数をかけることができる。


以上をまとめて各食品とその生産場の使用制限範囲とその期間を一括して示す。


全放出の場合C/m2期間



米 麦 出穂前被災 4×10-5 棄却
出穂後被災 4×10-6
野 菜 4×10-6
牛 乳 4×10-6


使


水田、麦畑 4×10-5 10年
野 菜 畑
牧  場
淡水漁場 河川3ヶ月 湖沼 1 年
沿岸漁場 貝養殖場 3ヶ月
のり養殖場
海藻養殖場
沿岸漁業場 6×10-3

揮発性放出の場合C/m2期間



米 麦 出穂前被災 6×10-4 棄 却
出穂後被災 6×10-5
野 菜 6×10-5
牛 乳 2×10-5 保 存
6×10-5 棄 却


使


水田、麦畑 6×10-4 10年
野 菜 畑
牧  場
淡水漁場 河川 3ヶ月 湖沼 1 年
沿岸漁場 貝養殖場 3ヶ月
のり養殖場
海藻養殖場
沿岸漁業場 6×10-3

引用文献

 (1) 農林省統計表
 (2) NISHITA et al. (1957) UCLA Rep.401
 (3) MIDDLETON (1958) Nature 181. p.1300
 (4) COMAR et al. (1956) Progress in Nuclear Energy,Siries VI,
     Biol. Sci.vol. 1.
 (5) FAO (1959) Radioactive materials in food and agriculture.
     FAO/59/12/9811
 (6) DUNSTER, H.J. et al. (1958) 2nd Geneva Rep. vol. 18. p.296
 (7) REDISKE et al. (1956) 1st Geneba Rep.
 (8) HAMILTON.J.G. (1948) Rev. Mod. Phys. vol 20,NO.4
 (9) 三井進午他 (1959)
(10) COMAR. C.L. et al (1958) Sr-Ca movement from soil to man.
     Science 126. 485
(11) CHRISTENSEN, C.W. et al (1958) 3rd Nuclear Engineerign and
     Science Conference, Chicago
(12) ICHIKAWA (1960) Rec. Oceanogr. W. in Japna.
(13) 食品成分表
(14) PENDLETON et al (1958) 2nd Geneva Rep. vol. 18. p.419
(15) KRUMHOLZ, L.A. et al (1957) The effects of atomic radiation
     on oceanography and fisheries
(16) 大島幸吉 (1950) 水産動物化学
(17) VINOGRADOV, A.P. (1953) Sears foundation for marine research
     memoir II, Yale Univ
(18) CHIPMAN, W.A. (1956) Progress rep. 1956. U.S. Fish & Wildlife
     Series, Beaufort,N.C.
(19) 厚生省 国民栄養の現状
(20) MRC Rept. (1959) Brit. Med. J. April, 1959


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